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HJ58 1988/11,12
失敗しないHF帯リニアアンプの設計と製作

JA1QPY 玉置晴朗 (WEB掲載2000/1/2) album(2003/08/26)撮影  PDF HJ58原本

------------------------ 目次 ------------------------

設計の目的

 HF帯のFETリニアアンプを計測器がなくても再現可能なように設計試作してみました.再現のときに必要なものとしては,送受信機(1〜10W),SWR計,テスターだけでできるように努力しています.
 設計試作に使用した計測器は,自作のものがSWR計,デイツプメータ(470MHz),周波数カウンタ(1GHz),そのほか簡易計測機としてメーカ製のものが,アナログ,ディジタル・テスタ,100MHzシンクロ,トランシーバ(T S−430V,10W)を使いました.ほとんどは予定外の周波数(スプリアス)や電力の計測に使用したものです.限界特性や定数値のいい加減さを調べるために使ったものなので,再現のときにはなくても大丈夫でしょう.
 入力10W以下で出力は50〜100Wを歪みなく達成でき,広帯域で安くかつ入手可能で特性がはっきりわかっている部品を使い,特殊なものは使わず,そして調整部分がなく安定な動作を目標にしています.
 これは今までいろいろな記事を参考にしてきて,結局,失敗したり行き詰まったりするのは,十分な測定ができないこと,調整がクリチカル,入手不可能な部品,許容誤差範囲が明確でないことに起因しているのではないかと思ったからです.そこで失敗しないためになるべく無調整でかつ高性能,コイルは使ってもQの高い同調回路ではなくQが低くてもとくに問題がない形式で使わないと再現性どころか,完成さえもおぽつかないというのが設計上の結論になったからです.

リニアアンプの問題点

 リニアアンプでいつも(真空管時代から)問題になるのは
・入力の整合
・出力の整合
・直線性・スプリアス
・安定性
 どれもそれ一つだけを取り出して解決することはできないのですが,設計の筋道は以下のようになりました.
 私達が測定にいちばん苦労するのがスプリアスでしょう.まず解決しなければならないのは,この点からです.スプリアスは2種類の原因から発生します.一つは入出力が直線的でないこと,もうひとつは不安定な動作です.
 これらを満足させるためにメーカー製の終段回路はNPNのパイポーラ・トランジスタに負帰還をかけて動かしているようです.オーディオ回路での負帰還は直線性を向上させるのに非常な効果があり,アマチュアの製作でも周波数が低いところならばとくに問題はないようですが,高周波での負帰還の難しさは,パラメーターが簡単に決定できないことでしょう.
 過去の記事を見てもかなり定数値に幅があり,実験的に求めているようでした.リニアアンプのような大信号を扱う回路はトランジスタのパラメーターは変動しますし,位相回転の大きい領域での負帰還は手に負えないということで,十分な測定器のないアマチュアの場合には不可能という結論に達しました.

FETの採用

 そこで,FETと同相トランスを採用したのですが簡単にその理由をFETの特徴も含めて列挙してみますと
・入力がダイオード特性ではない=直線性がいい
・高周波特性がいい=負帰還なしでごまかせる
・動作範囲内の特性変動が少ない=直線性がいい
・破壊に強い=アマチュア的使用に耐える
という話だったのですが,聞くとやるとは大違い.実に20本近くのFETを飛ばしました! そのほかの効能はだいたい当っていたようです.
 本機のもう一つの特徴である同相トランスは,高周波においては普通のトランスに比べて(この部分は「トロイダル・コア活用百科」CQ出版からの引用です),電圧変換比が整数比になること以外はいいことずくめです(第1表).比率のはうは回路のほうで何とかすることにしましょう.
 同相トランスは高透磁率のコアに伝送線路(同軸,平行線)を巻きつけたものです.ドーナツ状の形をトロイド,トロイダル・コアといいますが,市販品で特性がよくわかっているものがあるのでそれを使用します.
 さてこれで使用する部品が先に決まってしまいましたので,後は回路形式やもろもろのパラメーターなどを算出します.回路は偶数次高調波の少ないP-P形式をとります.プッシュプルとは押したり引いたりの意味ですが,位相が反転するたびに反対の動作をするように対照的な回路になっています.
 デバイスは電源電圧が高いという不利な点もありますが,リニアリテイ,安さ,特性が良く,素直という点から,FET(2SK408,2SK409)を採用しました.このFETは連続番号で408,409とありP-P接続用に対照的なピン配置にデザインされています(第1図).
 コアは詳しいデータが発表されているトヨムラのトロイタル・コアにしました


設 計

●電滞電圧,出力インピーダンス変換部

 まず最初にP−P回路で実現可能な電源電圧,出力巻き線比を決定します.設計目標50Wから,50Ωに50Wを供給すると(50V,1A)です.歪みなく出力するということからそのピーク値は,±71V,±1.4Aになります.
 第2図(a)で上のFETが完全にON,下のFETがOFFになる瞬間では電流がトランスの両巻き線をバランスするように流れ抵抗の両端に電圧(IR),ONしているFETには2Iの電流が流れます.理想的なスイッチ動作をするFETなら,A点は0V,B点は2Eになります.
 無歪み電力=50W,抵抗=50Ωの条件ではピーク値で71Vを満足しなくてはなりませんので,R=50Ω,2E=71Vから,電源電圧は35.5Vという値が出てきます.このときFETに流れる電流は約1.42Ax2=2.84A,電圧は71Vとなります.
 ここで使われる理想的FETはONの瞬時値を満足するために(オン電圧=0,オン電流=2.84A)の持性が要求されます.
 しかし何事も理想的にはいかないので,その部分を検討します.最大電流が1つのFETでまかなえればいいのですが,このFETのソース接地伝達特性は第3図の部分で使用しなければ飽和してしまうことを示しています.最大でも1.4Aぐらいでしょう.
 そこで,このP−P回路をバラプッシュにして一個のFETには半分の瞬時値1.42Aを流します.次に,そのときのオン電圧は,第4図のソース接地出力特性から,約8Vぐらいになるだろうということが読み取れます.
 電源電圧は計算値35.5Vにオン電圧8Vをかさあげして,43.5Vが必要になります.動作時の電圧電流を入れたものを第2図(b)とします.
 実際には安定化電源を使わないので電源電圧変動率を5〜10%見込んで電源電圧は無負荷時に50V,最大負荷(平均電流2A)時に45Vくらいの電圧にします.なお,FETには最大約100V,1.5Aの特性が要求されます.FETのそのほかの規格は第5図第6図に示します.
 ここまでで,パラプッシュ方式,電源電圧=50Vと決定したのですが,第2図の回路をさてどうやって50Ω不平行線路(同軸)に接続するかといいますと,よくアンテナに使われるフロート・バランを使います.
 普通,よく使われるトランス型にしなかった詳しい理論的背景は参考文献にまかせますが,簡単には第7図の平衡側から見ておのおのが25Ωに見えている部分に対する不平衡にした影響が,十分に少なければよいということにつきます.たとえば25Ωに対してフロート・バランの同相インピーダンスが10倍の250Ωぐらいなら10%ぐらいの誤差で接続できるということです.
 もちろん同相インピーダンスが高ければいいといっても実現可能な値に収まっていればいいので,これは同柏インピーダンスがいちばん低くなる最低使用周波数で決定されます.ここでは欲張って,1.9MHzで250Ωに設計してあります.

放熱設計

 全消費電力は,100Wを入力し熱として50Wを消費しきるだけの放熱部が必要です.バラプッシュなのでこのFETは12.5Wを消費します.第6図より内部熱抵抗(℃/W)は,125/30=4.20℃/Wです(30Wの変化分で125℃).12.5Wの電力消費のときには,無限大の放熱板を付けても周囲温度より52.5℃の温度上昇がありますので,室温30℃時には80℃にも温度が上がります.
 実際にはジャンクで入手した放熱板を使用しましたので,「トランジスタ技術」87年3月号p.361の図により熱抵抗を推定しました(図A).この表をパソコンで使いやすいように表から計算式に変換して,RBBS上に記憶して引き出せるようにしてあります.図Aを計算式に直したもの(推定・誤差10%以下)は
 H=9550*(V^(-0.66))
     V=体積 mm^3,H=熱抵抗 ℃/W
 使用した放熱板の寸法は,250×77×45mmの片面フラットなもので,上式から約1.15℃/Wとなりますが,細長いので実際はもっと割り引いて考える必要があるでしょう.放熱板の熱抵抗=1.50℃/Wとすると4個のFETですから一つあたりでは(6℃/W)になり,総合すると10℃/Wぐらいになります.12.5W消費のときは,室温より125℃高くなります.室温25℃のときには,ちょうど限界の150℃になりますので,29MHzのFMでデユーティー100%で使用するにはちょっと心配ですが,実際のQSOではとくに問題がおきませんでした.放熱の効率は熱源が分散していることもあってかなりいいようです.
 SSBでは放熱板が熱くなるという感じはなくホノ暖かいぐらいになります.しかし安全性からもせめて同等の放熱板を使ってください.

直線増幅器の設計

●入力段の減衰器

 入力は第3図からわかるように,バイアスがないとしてもピーク値で5Vもあれば十分です.10Wのトランシーバーは50Ω負荷にピーク値で32Vのドライブ能力を持っていますので,これを適当に減衰させる必要があります.P-P回路なので半分ずつになりますから実際には,電圧にして約1/3にします.
 しかし,もろもろの拐失がありますので実験的に決定しました.はじめは-10dBとして作っておいたほうがいいと思いますが(オーバードライブはトラブルのもと),完成時にはドライブするトランシーバのばらつきもありますので,14MHzのCWモードでフルドライブし,そのときに60W以下になるように決定してください.私は第11図にあるように(-7dB)にしてあります.これですと14MHzのとき杓60W,29.7MHzのときに50Wになりました.
 ATTの計算式は第8図第9図に,また,実際のものに定数値を入れて消費電力を計算したものが第10図のものです.
 使う部品は,同じ抵抗値であっても入力段になるほど消費電力が大きいので,消費電力の2倍ぐらいの金属皮膜の抵抗を組み合わせてインピーダンスが50Ωになるように減衰器を構成しています.10W近くを消費させるので,ここに使う抵抗は工夫が必要ですが,あまりW数の大きい抵抗は高いので,一山いくらで売っている抵抗を組み合わせても結構です.
 組み合わせる場合は,直列よりも並列のほうがリード線のリアクタンスの影響が少ないし,機機的にも空中配線に向いています.配置は空気の流通をよく考えて行います.10Wといえば小型のハンダごてぐらいの発熱ですから.

●入力段のトランス

 不平衡で入ってきたものをP−P用に平衡型に変換します.ここにはFB−801というフエライト・ビーズを使っていますが,扱う電力も1W以下なのでこれで充分です.アンテナに使う強制バランと同じ回路構成です.
 工作は0.35φのホルマル線3本をよくねじって作ります.いい加減に作ってもいいのですが,問題はどれがどの線やら判別がつかなくなりますので,巻き終わったらすぐにテスターで線間のショートがないことと,3本の巻き線のあいだの結線をすませておいてください.回路に入れてしまうともうさっぱりわからなくなります(第11図).

● FETのドライブ

 FETへの入力は,第5図(a)にあるような完全な容量性です.この容量は若干の変動をしますが,一個あたりほぼ100pFと見なすことができます. このままでは,28MHzでのリアクタンスが約56Ωで並列になっていますので,28Ωのリアクタンス負荷となります.
 こういう負荷をうまくドライブするのはむずかしいのですが,もともと50Ωでドライブしてくるトランシーバからの出力をP−Pにして,半分ずつの25Ωとだいたい同じ値なので,単純に25Ωの抵抗を並列にして我慢します.
 抵抗分と同じリアクタンスが並列になったときのSWRの悪化は計算してみると,2.6ぐらいになりますが,トランシーバー側から見たときにはATTが入るのでSWRの悪化は関係ないし,ドライブ電圧が28MHzでは若干落ちるぐらいなので我慢します.気に入らない方は後述の定K型のLPFを入れて等価的にキャンセルしてもいいでしょう.
 バイアスはFETが充分な直線性を発揮するように,約2Vの安定化された電圧源を必要とします(第3図参照). 本来は温度保証しなければならないのかもしれませんが,FETは温度の低い状態では電流が大きく流れ,温度が高くなると減少する特性を持っているので,とくに温度保証をせずに室温状態のときに1本当たり60mAを流しておきます.100mA流した状態でもFETl本で3W消費しますので,4本では12Wの消費電力です.小さな放熱板では電源を入れているだけで結構な発熱量となりますから,対策としてFETに与えるバイアスをトランシーバーからの制御信号で動かします.こうすると受信しているだけのときには発熱はなくなります.

●出力回路

 出力回路はトランス結合の一般的な形ではなく,P−Pの対称性を持たせるために伝送線路型のトランスを使い,ダイレクトにドレインから出力を取り出しています.平衡型の出力なのでフロートバランを使って不平衡型に変換しています.インピーダンスはもともと50Ωになるように設計されているので変換していません.
 ここが普通のトランジスタ・リニアアンプとひとあじ違うところです.伝送線路型のトランスは発熱が少ないので温度上昇によるコア材の性能劣化をあまり気にしないで小型化できます.強磁性体にはキュリー点といって,その温度に近づくと非常に透磁率が下がり,ついには1になってしまうところがありますす.
 トランスは透磁率が高いことにより動作しているので,これが1000のオーダーから1桁の値まで下がってしまいますと,単なる電線になり下がってしまいます. 温度が上がると,透磁率が下がり電力の行き先がなくなりコアを加熱します.そうするとまた温度が上がるという悪循環をたどり,30秒ぐらいのうちに150℃ぐらいになってしまい,ぼやっとしているとすぐにFETが“パチッ”と音をたてて飛んでしまいます!
 製作中に何度かプラスチックがハジケとびました.このときばかりはメガネをかけていてよかったという気になります.
 このような貴重な体験?をもとに製作例はかなり安全値をとっています.実験的には電圧を70Vにあげたときに,29MHz(FM)連続100W出力(もちろんダミーロード)にもパスしています.ただし,この出力でSWRが悪化するとFETが,即,破壊します!

●ドレイン側にあるL P F



 第12図大きな図の回路を見ると,ドレインに奇妙なLPFのようなものがぶら下がっていますが,これは広帯域動作をさせるための苦肉の策です.日立の参考資料には28MHzのモノバンド用の回路があったので製作を始めたのですが,広帯域アンプにはそれなりの苦労がありました.はじめは100W用として製作していたので,電源は70Vでした.全体の構成は第13図に示します.
 詳細な原因を解明したわけではありませんが,出力振幅が大きくなると異常発振が起きてきます(第14図).100MHzのオシロスコープでみると教科書に出てくるように波形の一部に細かい振動が見えるのです.ほかにも,最大振幅に近づくとピークが反転したような現象が起きます.いろいろ考えてみたのですが,結局,このFETを使ったものはゲインが高すぎるという結論に達しました.
 普通のトランジスタ・アンプは入力1Wに対して出力はだいたい10W,電力ゲインは約10倍です.これに対しこのFETアンプは入力1Wで50Wの出力なので,50倍の利得を持っています.1W程度のトランシーバーがあれば,ダイレクトにドライブできるのが逆に災いして,ドレインーゲート間の帰還容量(0.2pF)や配線間の浮遊容量で異常発振を引き起こしているように見えましたので,等価的に出力側の容量を大きくして電圧の時間変化の割合を下げることにしました.つまり帯域制限をしたわけです.カットオフ周波数は21MHzに設定されていますが,28MHzになるとガツタリ落ちるというわけではなく,30MHzまではほとんどロスがないようになっています(第15図(a)大きな図)
 中和という方法も試してみたのですが真空管と違って帰還容量に電圧依存性があったので安定に中和をかけることはできませんでした.ほかにも気休めのバラ止めがはいっています!

●出力用L P F

 出力には2段の定K型LPFをつけます.JARLの認定上必要なのではじめから作り込みました.これの設計周波数は,30MHzとHF帯の上限になっています(第15図(b)大きな図)
 P−P回路はバランスがとれている場合は2倍高調波より3倍高調波のほうがでやすいので,14MHzのときに42MHzをどれぐらい抑制できるかが問題になります.
 残念ながら簡易型ですので簡単に作れる点を除いては42MHzでは数dB以上の効果はありません.ドレインについているLPFと重ね合わせたものが最終的な特性なので,概算では第2表(大きな表)の値ぐらいですから,14MHzではないよりましと考えてください.
 しかし,基本的に14〜28MHzではクリーンな出力なようですので,問題が発生したら4段にすればいいと考えました.心配な方は,この出力部分を4投にしてもいいでしょう.単純に2投がさねにするだけで結構です.定数値は第15図(a)により計算され,これを1ユニットとして多段接続することができます.
 この部分は第15図(c)に詳細があります.コイルは簡易的には第15図(d)で作り,デイップメーターと標準C(100pF)で共振周波数を測定しました.

電源部の設計

 電源はオーディオ・アンプ用のトランスを使っています.AC35Vのセンタータップ付きのもので,最大5Aとれるものがあったので使いました.選定に当たっては整流後の出力が無負荷時に50V 2A流したときに45V以上になるように選ぶ必要があります.全波整流ですと35〜38V 3A,両波整流ですと,35Vx2,3A,ぐらいのものを選んで使ってください.
 整流器は整流電圧が高いので,最低でも150V 5A程度のものが必要です.これは必ず放熱を考慮してアルミ板にネジ止めしておいたほうがいいようです.平滑用のコンデンサ←は5000μF以上で耐圧が70V以上のものにします.実際には10000μF,80WVのものを使いました.

 このコンデンサーに蓄積される電力はものスゴイので,うかつに短絡などをさせると家族が飛び起き,手に持った電線などはあっという間に蒸発して手に火傷の後を残してくれますので,くれぐれも注意!配線の一部に自動車用の電線の一部に挿入できるヒューズ・ホルダーを入れておくのもひとつの対策です.
 はかに送受切り替え用のリレー用の電源を必要としていますが,これは使用するリレーやトランシーバーに合わせてください(第16図).

コントロール部の設計

 これは,TS−430Vの外付け用として作ったので,それから出てくる(ACC)アクセサリー用?というDIN端子から送信時に12V,受信時に0Vが出てくる端子を使っています.
 電流がどれぐらいとれるかまったく不明なので(回路を見ればわかるのですが),いったんトランジスタで受けてリレーを駆動しています.
 リレーは素性不明ですが,手持ちで気に入ったものを使いました.浮遊容量などでのトラブルを受けるといやなので,周囲を鋼箔でぐるりと巻いてグウランドに接地しておきましたが,効果のほどは不明です.リレー用のトランジスタは小電力用のNPNのものなら何でも結構です.この辺は使うトランシーバーにあわせて構成する必要があります.

製 作

●放熱板の処理

第17図 放熱板の上の部品配置 放熱板は片面が平らなものを使用します.すべての部品をこの上に配置しますので,そのレイアウトを考えて手に入れてください.ケースはとくに構成するというのではなく,この放熱板のネジ止め穴などを使ってL型のアルミ材を適当に止めて組み上げてあります.この方法ですと製作中にケースが邪魔になることもなく,調整や修正が楽になります.
 部品は大きいものは下穴をあけてタッピングネジや3mmビス止めします.FETの取り付け穴は皿モミ加工しておいたほうがいいでしょう.

●全面アース

 まず,放熱板に粘着性の鋼箔シートを貼ります.このシートはグラウンドを任意の場所にとれるので非常に便利です.全面に貼り付けた後でFETの部分だけをカッターで切り取り,FETはじかに放熱板に取り付けます.
 このFETはゲート端子がフランジに接続されていないので,放熱板との間は直接取り付けてもOKです.放熱板とシリコングリスは上質のものを使って取り付けます.シリコングリスはトランジスタのプラスチックを侵すものがあるそうですから信頼のおけるものを使用してください.

●端子台

 トロイダル・コアや他の部品をコンパクトに配置するために,約6cm角の両面基板を使用します.両面基板にのせる部品配置をよく考えて,あまり小さく区切らないようにカッターで切れ目を入れます.ランドの問はハンダくずなどがブリッジを作らないようにやや大きめに2mmぐらいの間をあけます.
 切れ目を入れてから端の部分をカッターで起こして,その部分をニツバーなどでそっとつかむとそれはどむずかしくなくはがれます.これはある程度熱練が必要ですが,高周波回路をいじってみようという人はぜひ慣れてください.エッチングなどということをしなくてもたいていのものが作れるようになりますよ! この端子台は放熱板の上に接着した鋼箔の上からネジ止めしたあと,要所を鋼箔で接地します.
 配線は銅線と銅箔を適当に使っていますが,銅箔はけっこう便利です.はさみで切れますし,表面積が大きいので高周波には適していると思い,多用しています(第17図大きい図).

●トランスの製作



 コアを使ったものが3個あります.入力トランスT1は第11図,写真1を,出力トランスT2,T3は写真2を参考にしてください.
 T1はホルマル繰をよくねじって使います.3本の出入りがわからなくなりますが,巻き終わってからテスターで調べて配線してください.T2,T3は同じものです.電線が太いためによじることができませんので,2本の線を隣り合うようにして巻きます.
 トロイダル・コアは,ほとんど絶縁物なので何も処理しないで巻いて結構ですが,T2,T3は2つのコアを事前にエポキシ系の接着剤で貼り付けておいたほうがいいでしょう.コイルに使うホルマル線は,絶縁物をむかないでもハンダづけができますが,高温にならないと変質してくれないので,高温にすることのできるハンダごてがあると便利です.

● FETの取り付け

 FETは鋼箔の上から取り付けることもできますが,鋼箔にFETのはいる穴をあけてネジ止めしました.シリコングリスを塗布しますが,あまりべったり付けるとネジ止めの際にケースが歪むので必要最小限に薄く塗り付けておきます.ソース端子は最寄りの銅箔に最短で接地します.ほかの端子は2個ずつ銅箔で結びます.
 ソース端子は中心にありますので,そこに適当に切った銅箔でシールド板を立てます.このようにして,入力側と出力側を分離すると安定動作に役立つようです(写真3).

●部品の取り付け

 入力側のトランスは配線を間違えないように,出力側は重いのでしっかりと両面基板にハンタづけします.
 コンデンサーはすべて(耳タコですが)足を短く切断して再短距離を心がけます.2個並列に使っている部分もありますが,必要なのでそうなっています.計算してみればわかりますが,これらのコンデンサーには2A程度の電流が流れていますので,0.01μFが2つだから0.02μFが1つでいいとかなどとやると問題を起こします.図面は最低限の記述しかしていませんので・‥.
 コイルは正確な寸法に作ることが条件なので,正確な形態を維持するように取り付けます.最終的には実測により決定されています.5回と書いてあれば正確に5回で,4.7向でも5.3回でもありません.
 形態は,巻き数,内径,巻き幅=長さ,線径により定義されています.同じ線材を使えないときは他の寸法だけでもおなじようにしてください.コイルには100pFを並列にしたときの共振周波数が記載されていますので,デイップメータなどでおなじ周波数になるように作れば,別の形態になっても支障はありません.
 配置はもちろんコイル間の結合が少なくなるように距離をとる,直角に配置 としてください.
 このリニアアンプから外に出る電源線,制御線にはすべてフエライト材でチョークを形成します.太い電線にはFB801,細いものにはビーズFB101を使い分けます.そしてコネクターにじかにパスコンを付けてケースに接地します(写真4).
 ヒューズは必ず内装してください.電源側にあるからとたかをくくっていると何が起きるかわかりません.電滞側に5A,本体側に3Aというのが妥当でしょう.
 バイアス関係はトランシーバーからきている12Vをいったん9Vに安定化して,それから半固定抵抗で分割して与えています.この部分に高周波がのると不安定化電源になるので,必ず7809Lの人出力最短にパスコンを付けます.ディジタルIC用のパスコンが特性がいいのでおすすめです.ワンチップの定電圧用のICは内部に高利得のアンプが入っていますので,必ず入出力の端子まぎわでパスコンで接地するような使い方が推奨されています.
 使用する半固定抵抗はぜひ高品質のものを使いましょう.品質の悪いものを使うとFETを破壊する恐れがあります.オペアンプのバランス調整などでも低品質でいいとは思いませんが,本機ではバランスが崩れたというような簡単なものではなく,バイアスが流れなかったり,流れすぎてFETが壊れてしまったりします.
 長期安定性と設定時に頻繁に動かすことを前提にして,半固定といわず調整後,安定に動作するようになったら固定抵抗に変更しても結構です.
 高周波部分の引きまわしは(1.5D-2V)を使っています.28MHzにもなると空中配線50mmを50Ωでドライブすると,VSWRが1.4になることを考えに入れて配線しましょう.

調 整

 調整はありません! といいたいところですが少しはあります.トランジスタ式のリニアアンプとしてはかなり高い電圧を扱うので細心の注意で始めてください.

●入力段の試験

 電源をまったく接続しない状態で,トランシーバーからの電力を与えます.CWモードにして通過型電力計を入れておきます.トランシーバーから最大電力をしばらく出して,入力段のATTなどが燃えたりしないことを確認します.10Wという電力は意外と大きいことが実感できます.
 抵抗のW数と空間的配置が重要です.発熱でハンダがとけたり,にじみ出してくることがあるので,風を当てない状態で少なくとも15分ぐらいは試験しておいてください.

●バイアスの設定

 はじめから50Vの電源への接続はやめて,12V程度の電源に接続します.電源電圧が低くてもそれなりの動作はするので,この状態で試験します.トランシーバーはSSBモードにしてマイクははずしておきます.バイアスは0Vになるように,あらかじめ半固定抵抗をまわしきっておき,また,電源側には電流計を入れて準備完了です.
 制御線を送信状態にするとバイアスが供給されます.約250mAになるようにしますが,電源電圧12Vの状態でもマイク入力があるといくらかの出力は出ますので,ちゃんとダミーロードは付けておきましょう.
 電源を12Vの状態で始めるのは,異常発振しても破壊に至らない,配線ミスがあっても火事にならないようにというわけですので,自分の技術を過信しないで必ず実施してください.
 この状悪で小出力ながらそれなりの動作をすることを確認してから50Vを与えて本格的動作試験をします.

●実地試験

 つぎに電源を正規の状態,50Vにして実地テストに入ります.トランシーバーは14MHz,SSB,マイクなしにセットします.リニアアンプ本体にはダミーロード,通過型電力計,電源側に電流計をセットしておきます.
 最初にバイアスを再設定してください.いくらか半固定抵抗を絞らないと250mAを超えてしまいます.バイアスは多く流すといいとはいっても,発熱の問題もあるので250mA程度のどこかに決めざるをえません.
 CWモードにして送信機から最低出力で送信するといくらかの電流が流れ通過型電力計がぶれるでしょう.送信機からのドライブ電力を増加させて最大にしたときに約55Wになるはずです.
 このとき電流は約2Aになるはずです.私の場合(46V,2A)で92W入力になっています.10W機の場合,最大にドライブするはるか以前に50Wになり頭打ちになるようですとATTの値が低すぎるので,もうちょっと減衰率を上げなければスプラツターが出ます.0〜10Wまでドライブ電力を上げていったときに,スムーズに送信電力が0〜50Wにならなければいけません.直線増幅器ですから!

 調整完了状態での入出力特性は,第18図大きい図のようになります.入力はATTの直後,トランスにはいる前で1SS16で整流したピーク値を電力に換算し,また,出力はLPFから出てダミーロードに入力するところを通過型電力計で測定したもので,ATTを可変型のものにして測定しています.換算値ですので正確にはいえませんが入力が杓2Wで出力が50Wになっています.入力電力を上げていくと出力は60Wを超えていきますが,この状態ではかなり歪みが多くドレイン電圧を見てみるとクリップしています.
 他の局に音声をモニターしてもらい,リニアアンプを付けていないときとはS以外は変わらないことを確認して完成です.通過型電力計を2個用意して入力と出力の直線性を測ったり,長時間の送信状態での温度上昇,ランニングテストをやってみると最高です.

計測上のトラフル

●オシロスコープのブロープ

 高周波を観察するのにはオシロスコープで見るのが一番簡単だと思っていたのですが,意外にも電力回路はそうは簡単に見ることができませんでした.原因はプロープに高周波がのってしまうことにあったようです.
 測定する際に最寄りの場所にブロープのアース線をつなぐのですが,そのアース線にかなり大きい電流が流れるようです.これを阻止するためにプローブのケーブルをトロイダル・コアに数回巻いてみたところ,入力側と出力側での同時観測をしているときにもきれいな波形を見ることができました(第19図).
 はじめは波形そのものが歪んでいるのかと思っていたのですが,これで見た目には歪みがなくなっています.

●高周波整流用のダイオード

 1SS16と1S88を使って簡易型の電圧計を作りピーク電圧の監視をしましたが,ショットキー型(1SS16)は低電圧から直線性がいいのですが大きい電圧になると壊れてしまいました.最大逆耐圧がたったの5Vですから当然なのですが….しかし,高周波整流に使ってみてその低電圧での直線性には感心しました.アマチュア的に使うとばちばち飛ばすので100本買っておいても損はないでしょう.自作のSWR計などにはぜひこれを使ってください.

運用・結果・反省

 私のアンテナは13m高3エレ14〜28MHzのトライパンダーです.かなり標準的な日曜DXerだと思っています.1年半にわたって運用しましたが,現在までに大きいトラブルもなく使っています.1回だけ29MHz(FM)で長時間運用したときに3Aのヒューズが飛びましたがそれだけです.どうもヒューズがくたびれていたようです.
 10Wから50Wにしても普段とくにメリットがあるわけではないのですが,気は心というわけで入れっばなしになっています.Sの比較なんぞをしてみると,1〜2上がるかなというぐらいなので,国内QSOのときはとくに条件が悪いとき以外はまったくといっていいはど関係ないようです.
 珍局などのパイルアップのときも超ハイパワー?局に持って行かれますので,それならばと気楽に英語もどきのラグチユーをもっぱらとしていますので,カントリーいくつという話はできませんが,メーカー製のものと変わりなく使えるようです.
 SSBとFMでは圧倒的な発熱量の違いがありますので,もしFMを中心に使うのが前提でしたら放熱板はかなり大きいものを使われたほうがいいでしょう.プロアの音が気にならないのでしたら,強制冷却もひとつの有効な手段です.
 運用上の注意としては,アンテナの整合状態を検出する回路が入っていませんのでアンテナを切り替えたときとか,調整する(した)ときにはリニアの電源を切って10Wのほうで確認してから運用しないと下手をすると壊してしまう恐れがあります.短絡状態で運用したことはありませんが,アンテナをつながない状態やSWRが3を超えても支障はありませんでした.

 ダミーロードは,少なくとも50W,30分に耐えられるものが必要です.簡易的には500Ω(1/4W)の抵抗を10本バラにつないで,水を入れたコップの中に突っ込んでも実用テストには耐えます.最初はこの方法でやっていたんですが,ひっくり返すと被害が大きいし,あったまったお湯を飲むわけにもいかないので,ジャムが入っていたガラス瓶に500Ω(2W)の抵抗をオイル付けにして使っています(第20図).
 これはけっこう特性が良く,430MHzでSWR=1.1くらいです.簡単にできるので作ってみてください.SWRがうまく落ちない場合は外部導体を先ぼそりにしてはとんど抵抗に密着するようにしてみるといいでしょう.
 製作経費の概要と損得勘定ですが,リニア部分で10000円,電源5000円,たぶん20000円ぐらいになるでしょう.実際には,HFオールバンド100Wを目指してはじめた関係から,実験でFET20本ぐらいが昇天しましたので,これだけでも20000円くらい,つごう50000円くらいかかっているはずです.

HFオール八ンド100W

 電源電圧を70Vにして100W出力も可能ですが,少し不安定になります.入力は実質1Wですので電力ゲインが100倍にもなり,かなりの覚悟で組み立て,調整を進めないといくら予備のFETがあっても足りません.私はいささか小遣いが続かなくなってきたので打ち切りました.モノバンドにしてタンク回路をつければ可能性はあります.このままの回路でFETは3パラのP−P(6本)でやってみましたが,うまくいきませんでした.今後の研究課題です.
 オールバンドは歪みなく出力するという意味では駄目でした.このままの回路でも1.9から29まで50Wが出ます.しかし,14MHz以下はモノバンドのLPFをそれぞれにつけなければ駄目でしょう(写真5).
 本機の製作にあたり,「トロイダル・コア活用百科」(CQ出版社)という本は,バイブルといってもいいはど参考になりました.高周波回路にチャレンジしようと思っているひとはぜひ参照なさるといいでしょう

参考文献

・1984年版「日立 TRANSISTOR DATA BOOK」
・永井健三・神谷六郎著「伝送回路網学(上)」コロナ社
・山村英穂著「トロイダル・コア活用百科」
・「最新ダイオード規格表」,「最新トランジスタ規格表」
・G.R.Jessop編 関根慶太郎訳「VHF/UHF MANUAL 日本語版」
・久保大次郎著「高周波回路の設計」
・JR2HC B水谷日吉『50MHz50Wリニアアンプ』「CQ hamradio」1987年2月号p.225〜
・戸川治朗『包絡件積による熱抵抗の堆定』「トランジスタ技術」1987年3月号p.361
 以上,CQ出版社             ■H」■

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