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前橋工科大学・宮崎先生のHPより
誘導雷の現象と被害対策
 (C)数理設計研究所 玉置晴朗 JA1QPY 2002/09/08

目次:


1995年・夏
 古くからハムと雷は因縁の深いものがあります。近ごろはタワーも高くなり雷鳴を耳にすると恐れおののいている方も多いでしょう。アンテナ関係の本に落雷対策の記事があります。おおむねは直撃とアンテナから受信機への大入力対策として考えられているようです。
 私の住んでいる群馬県は雷が多いところです。東京から引っ越してきた人は必ず驚きます。近所のハムに聞いてみても10年に一度ぐらい、中損害を受けているようです。OMと言われるたぐいの人間はほとんど間違いなく何らかの被害を受けていますし、TVから火を吹いたとかGPに落ちて上部がささくれてしまったなどの話しには事欠きません。今年は例年になく大当たりで我が家で2回、近所のJR1GESへは直撃がありダイポールを支えていたグラスファイバはささくれてしまいました。
 直撃は保険を掛け火事にならないように対策する、それ以上のことは望めないようです。大半の被害は誘導による物らしくトランシーバやモデムのICが壊れる程度のことが多いようです。
 現実にある雷の被害は直撃よりも近くへの落雷によるものが数十倍の頻度になると思います。本稿ではこの直撃以外の雷による被害(誘導雷による被害)を主題にしています。
 誘導雷の被害があっても、雷のエネルギーは極度に大きい事が想像され、あきらめの感情を持ってしまいます。大電力だからと言うことで仔細に破壊の筋道を追及したりはしたりしない物でした。ところが最近ではパソコンによるRBBSやLANの24時間運用も多くなりました。かく言う私の設備も例外ではありません。雷が来たときにシャックにいることもありません。この記事は私の設備へ実際にあった2度の被害のくやしさに奮起して、原因を推定し対策の一部をまとめたものです。

発端

 1995年7月中頃、梅雨がぐずぐずと続き、前線が北関東の前橋付近を行ったり来たりしている不安定な時期でした。梅雨とはいえ、このような気候のときには雷雲が強烈に発達することがあります。
 稲光を見るのが好きなのでシャックの窓から南方を見ていました。頭の右上にはアンテナケーブルが天井からぶら下げてあります。部屋の模様替えのために5mほど余裕が取ってあるのです。
 落雷が激しいときには周囲にまんべんなく落ちます。東京でこのような雷があるとニュースに出るぐらい華々しい物です。ここでは当たり前のことですが・・・。
 盛りを過ぎたころ、突然ICがはじけるピシッと言うような音、同時に目の前でフラッシュを発光させたような光で落ちました。
 落雷の場所もさだかではなく立ちすくんでしまい、次の瞬間あわてて部屋から逃げ出しました。私の家への落雷では無いことはわかっていましたけれど、アンテナからごっそりケーブルを引き込んである部屋からは逃げ出したくなったのです。

落雷の結果

 シャックにはPCが2台、486DX(33MHz)と486DX2(66MHz)があります。以下、このPCはDXとDX2と書きます。2台のPCはイーサネットで接続されていました(注:イーサネットとは2台以上のPCをつないでデーターを共有するLAN)。
 DXはRBBSの試験のために常時運転中でした。このRBBSはネットではなく技術データなどを長期保存するためのデータベースとして動かしているシステムで、PC98からDOS/VのWINDOWS版として移植試験をしていました。
 DX2はプログラム作成や仕事に使う物です。DXはサブマシンなので普段は直接操作はしません。人間が対応するマシンと、データ保存やRBBSのために常時動かしておくサブマシンとに分担させ、DX2の電源はオフになっていました。
 雷も去り、心が落ち着いてから電源を入れ直しても2台のPCは起動すらしません。ケースを外してあっちこっちと検査した結果、DX2とDXのI/Oカードが一枚づつ、両方に接続されていたTNC2台とFAX・MODEMが壊れていました。トランシーバには被害はありません。
 TNCはRS232CインターフェースIC(MAX232)とLSI(SIO)が壊れていました。通常はRS232CインターフェースICだけが壊れるのですが、SIOのLSIまで波及していたのです。I/Oカードはスロットに差しておくと本体が起動しない状態なのでLSIなどに破壊が及んでいるようでした。どれも見かけは正常で特に焦げたような形跡はありませんでした。

故障箇所からの原因推定

 我が家は鉄骨構造で鉄骨のH鋼が部屋内に一部見えているので、そこに保安用のアースが出ています。落雷時にこれは使っていませんでした。
 RBBSの周波数は435MHz、アンテナはコリニアで同軸外皮、屋根上のルーフタワーを介して家の鉄骨に電気的に接続されています。部屋の中から同軸の外側と室内の保安接地までの抵抗を測ると0.2Ωでした。鉄骨は基礎を通じて接地されているので、10Ω前後の接地抵抗になると想像されます。
 図1を見てみるとPCからRS232Cケーブルで出ている両端のICが破壊しています。直撃ではないので電灯線かNTTの回線から侵入してきたパルスでしょう。NTTの方は他にも普通のFAXや電話機がつながっている別の回線もあり、それらは全く無傷でした。風呂のコントローラも雷対策用らしきリセットSWを押すまでは停止していましたし、近所ではクーラーの被害もありました。
 したがって、この被害は電灯線から強烈なパルスが到来したと考えて間違いないでしょう。
 電灯線からのパルスだとしても電源部が壊れるのではなくRS232Cの両端で破壊したのが不可解なのでさらに考えてみました。電灯線からのパルスは電源部に電源フィルターがあり対策されています。だからこそ電源は壊れなかったのですが、システム全体の雷対策としてはまったく効果がなかったのです。つまり電源部にあるノイズフィルタは電源部を守るだけで、他の部分を守る物ではなかったということになります。

ノイズフィルタ


 フィルタはPCのSW電源から外に出る高い周波数ノイズ(100KHz以上)を減衰させるのが主な目的です、雷のことはほとんど考えてありません。フィルター部分がコネクタに作りつけになっていることもあります。このフィルタに雷のパルスがくれば、そのエネルギーをケースに流す効果があります。つまり図2Bのような電源コンセント型になっているインレットフィルタの場合にはPCの電源SWを切っておいてもまったく関係なくケースまで伝わってきます。ちなみに私のシステムで電源フィルタの部分がどうなっているか静電容量を手元のPCとCRTについて電源線とケースの間の静電容量を調べてみました。
静電容量
PC電源OFF 500pF
PC電源ON 0.01μF
CRT電源OFF 0.02μF
CRT電源ON 0.01μF
 これから推定するとPCは両切りの電源SWの後にノイズフィルタが入っているようです。CRTのノイズフィルタは2段になっているのか、それとも片切りの電源SWなのでしょう。図2Cが電源フィルタ部の推定回路です。このシステムを稼働させた状態にしておくと、電源SWを避雷のためにOFFにしても信号線のグランドへは、0.01〜0.03μFで接続されています。インダクタンスは雷の周波数エネルギーでは無いに等しい物です。
 これを元に誘導電流の電源部からアンテナの接地までの経路を追うと図1の矢印になりました。かなりの大電流が電源部フィルタ→RS232Cとイーサネットケーブル(3D2V)を介してI/OカードやTNC、MODEMのグランドに流れたのでしょう。
 グランドに電流が流れると信号線には反対向きの電圧が誘起されます。RS232Cケーブルにノイズ防止用のトロイダルコアなどが入っていると、まったく効率よく信号線に電圧が出るのかもしれません。

雷現象

 TNCのRS232CはMAX232というICが使われていました。データシートによると入力端子は30Vの耐圧、SIOは5V系のLSIで普通は7Vぐらいまで何とか壊れません。そこで実際にどれぐらいの電圧や電流が発生したのか知りたくなりました。現象を知らなければ対策の立てようもありません。そこで県立図書館や大学の図書館を巡ってみました。
 高圧線への落雷については産業上の要請もあって大量の測定データや研究があります。低い周波数の空電も通信の問題で研究されていました。空電のほとんどは雷が発生源になっていて、これの研究から宇宙電波をジャンスキーが発見したなどとあります。
 雷の直撃については測定が数多くありました。電流のピークは1万Aから10万Aぐらいです。こんな恐ろしいほどの電流測定は数mΩの抵抗に流して光に変換して、光ファイバーで測定器にひいてくるそうです。
 時間的には立上り時間が1〜10μ秒、最大値に達してから電流が半分になるまでに40μ秒程度で、これが短い時間間隔(数10m秒)で1〜10回ほど繰り返し、関東では2〜3回ぐらいが多いようです。自然現象なので数値で見ると10倍程度の範囲にばらついているようです。総電荷は5〜200クーロン、稲光部分では1mあたり0.2Ωぐらい、数cmの太さ。
一発の雷のエネルギーは1億ジュールほどで、風呂(200リットル)数回分を適温に沸かすぐらいだそうです。
 高いところだけではなく水田に落ちることも田舎では良く知られています。避雷針を選んで落ちるわけではなく、どちらに落ちるのがお好みかと雷様に聞いてみたら、2〜3kmも上から落ちるので数10mの差は関係ないのだよと言うそうです。(雷を研究している前橋市立工業短大の宮崎先生の話)

 大平洋岸に住んでいる人は、雷は夏のものだと思っています。日本海沿岸、特に北陸では冬に雷が多く、冬の雷は主放電が上向きで枝が上に分岐した形になる割合が多いようです。北関東では年に30日ぐらい雷の音を聞くそうです。世界的には年に200日を越える場所もアフリカなどではあります。
 これらの文献調査では、かんじんの電灯線(低圧配電線と言うのだそうです)に発生する異常電圧やLANで多重接地がある場合の問題について出版物を発見できませんでした。思い余って、赤城山の中腹にある電力中央研究所に電話して子細を話してみると、親切なことに数少ない研究レポートを捜し出して提供していただきました(電力中央研究所、狛江研究所の雷放電グループ横山さん)。電力中央研究所は、電力会社の拠出金による研究機関です。

誘導雷現象の様相

雷放電による周囲への影響にはいくつもの道筋があり、ただひとつの考え方で説明される物ではないようです。 などがあります。落雷地点からの距離によっても主な原因が変わります。大地内電流、静電誘導、電磁波と順に遠方まで伝わりますし、近距離では大地内電流による物が大きな割合を占めます。
 被害を及ぼす誘導雷は家庭の低圧配電線に落雷するものよりも、6KVの高圧配電線かその上に張ってある地線または近所の避雷針に直撃し、その大電流が大地内を流れるとき局地的に大地の電位が非常に高くなり、それが配電線や保安接地のグランドから誘起して高圧のパルスが家庭内のコンセントに現れることが多いのではないでしょうか。この回路的に考えやすい3つ目の大地抵抗による影響が主ではないになると思い計算してみました。

大地抵抗の影響による電圧

雷撃点がどこであれ、大地に流れ込む地点を基準にして周囲への影響を多くの仮定の下に計算したものです。
図4A 地中で流れ出す電流を計算する

図4Bの仮定
 (雷は小さめの1万A、大地抵抗は田園、接地抵抗10Ω)

 接地抵抗が10Ω、それに1万アンペアですから接地点では10万Vになります。電圧は無限に遠くにある基準からの電圧です。
 100m離れていても1000ボルトぐらいになっています。10mでは1万Vぐらいですから、そこに立っていれば髪の毛が逆立つかもしれません。


図4C ある距離とその距離+1mの間の電圧

 これは同じ条件で、ある距離とその距離+1mの間の電圧です。人間が四つん這いになったとき頭の方向に落雷したときの手と足の間の電圧だと考えてもいいでしょう。
 100m以上離れていると15V未満なので感電はしません。しかし50mぐらいそばになると危なくなってきます。大きな雷だとこれの10倍ぐらいの物があるのでグラフの電圧も10倍ぐらいになります。
 私の義理の弟は農業で牛を飼っています。牛舎を建築しているときに地下に金網が埋めてあるのに気がついて理由を聞いたところ、落雷で牛が感電するのだと言っていました。おまけに雷の話しをしていたら、田んぼへの落雷が結構あり、秋になると円形に枯れているのが少なくないとの話などをしてくれました。高いところに落ちるだけではないようです。当時はそんなものかなと思って深く考えなかったのですがこのグラフで見るとわかりますね。野外にいる4つ足のスパンが1mと2mですし、牛は20Vぐらいで感電するそうです。
 さて、これらのグラフは物知りだということを誇示したいためではありません。実際に役立ちます。ためしに家の周りの配電線を望遠鏡を持って見て歩いてみました。
 配電線は断線の障害などを防止するに区画ごとにループになっているようですが私の家は地方都市のさらに田舎なのでループにはなっていません。

 今回の落雷は近所の回覧板を回している範囲(300×200m)のあちこちで障害を起こしました。クーラーや風呂のバーナー、温水器のコントローラーが軒並み被害を受けていました。しかし残念ながら、どこに落ちたのかは誰も見ていません。見ていたはずの私が腰を抜かす寸前だったのですから当たり前ですが・・
 近所に被害が集中しているので、どこかの地線に落ちたのは間違いないでしょう。見て回った限りでは電柱ごとに頂上の地線と単相200Vの中性線は電柱の中を通してアースされていて、電力会社でできる限りの対策は取ってあるようです。NTTの架線支持ワイヤーもアースされていました。
 何が壊れたかを考えてみると、接地してある物だと言うことに気がつきます。クーラー、温水器などは家の外にある機械に接地を取ってあることが多いですね。TVやステレオは接地が無い場合が多くなかなか壊れないようです。
 パソコンでも単体で使っている限り壊れないようです。ところが無線やパケットと接続しているとどこかで接地されています。特に接地していなくてもGPや八木アンテナなどで接地経路が確保されていることがほとんどでしょう。
 私の無線機でもシャックの中にきている同軸の外皮と家(重量鉄骨構造)の鉄骨の間では完全に導通状態(0.2Ω)です。 そこで以下のように推定しています。
  1. 近所への落雷が(電力線にではなくても)、雷撃点の接地を通じて大地に流れるとき、その接地点付近の電圧を持ち上げます。
  2. ついで付近にある電力線、3線式の200Vか2線式の100Vの接地側の電圧を持ち上げます。それが電力線を伝わってくると自分の家の接地との間で大きなパルスを発生します。
  3. 電力線で無くても距離が離れた2つの接地点があると同じ現象が起きます。これはLANなどで良くある現象です。
 自分の機械が完全に浮いていれば問題ないのですが、どこかで接地していると数KVのパルスがグランドへ流れるというわけです。この意味では雷やノイズ、インターフェア対策のために接地を取るのはまったく逆効果となります。直撃の場合に接地を取ってないと火災を起こす可能性もあり、困った物です。

 ところで、どれぐらいの電流が流れるのか概算してみましょう。図でA、B、Cの全てが10オームの接地抵抗だと仮定して雷撃点Aからの距離はBが50m、Cが100mだとします。
 A点に1万Aが流れ込むとしましょう。図4BよりB点は2000V、C点は1000Vとなります。B、C点の間を電線で短絡したときの電流はテブナン・鳳の定理というもので知られます。
 B、Cの接地抵抗は10Ωづつなので20Ω。B、Cの間は短絡していないときに1000Vの差がありますから内部抵抗が20Ωの1000Vの電圧源に見え、短絡電流は50Aとなります。これは小さな雷ですから実際には50Aから500A、もっと近接していれば1000Aを軽く越えるでしょう。(いずれにしろ、本稿に書かれている数値は概算もいいところであることに注意しておくことが必要です。)
 たとえば100A流れたとすると、電流経路にあるRS232Cケーブルの接触抵抗を含む接地線の両端抵抗が0.5Ωあると50Vの電圧が出ます。1000Aだと500Vになります。プリントパターンの中の細い配線なども無視できません。0.01Ωでも1000アンペア流れると10Vです。これではLSIなどはひとたまりも無かったでしょう。



コラム
低圧配電線への雷サージ電圧発生頻度(式、表)
1雷雨日当りのサージ電圧発生頻度、1000V前後の物が1日雷が鳴ると、55%
の確率で発生するという風に読み取る。雷雨日とは雷鳴が聞こえた日のことです。

V      %   1%値で約2万Vになる
1000  55.03
2000  14.05
4000  4.35
10000  1.51
20000  0.93
40000  0.64
100000 0.43

サージ電流は1%値で10KA程度、10%値で5KA程度、50%値で2KA程度
引用 日経エレクトロニクス 1988/8/22 454号 P286
電話線への雷サージ電圧発生頻度
1雷雨日当りのサージ電圧発生頻度、1000V前後の物が1日雷が鳴ると、24%の確率で発生するという風に読み取る。

V     %  1%値で約6KVになる
1000  23.9
2000  6.86
4000  1.97
10000 0.378
20000 0.109
40000 0.0312

引用 日経エレクトロニクス 
1988/8/22 454号 P286

対策

 一番の対策は外部に接続している全ての電源、信号線、アンテナを引っこ抜くことです。しかし、わかっていてもRBBSやLANを常時動かしているとそれもかないません。
★既存の対策用品
 対策としてはいくつかの考えがあり市販の対策部品は誘導電流を効率よく接地に向けて流してしまう物と、電源を分離するタイプなどが基本になっています。電源フィルタや信号線に入れるフィルタのたぐいは接地(ケースがほとんど)に電流を流して保護します。
 電源に入れる避雷トランスは捲き線の間にシールドを入れて電源からの衝撃をシールド経由で接地に流します。
 トランスが確実かと思い、値段や性能を調べてみるとだいたい100Wあたり1〜2kg、1万円でしょうか。最低でも4〜500W、短時間は1kW以上を供給できなくてはあまり実用性がありません。これは消費電力が決まっている機械のためにはいいと思いますが、私のシステムはレーザープリンタなどもあり瞬間的には1KWを越えてしまうので採用はしませんでした。
 信号線の対策用として各種のフィルタもあります。しかし良く考えてみるとグランド線をながれる大電流で破壊しているらしいので信号線そのものをいくら対策しても意味がないようです。
 上の電流経路図を見るとICのグランドがPCB内で配線されていた位置に重要な意味があることが判ります。さらにRS232Cにトロイダルコアなどのノイズフィルタを被せてあると信号グランドに流れる電流と逆方向へ電流が流れようとして信号線にも電圧が出てきます。

 結論は機器類の配線を経由して大地接地点へ誘導雷の電流を流させないことだと言えましょう。対策として、できるだけ誘導雷電流を流さないことにします。どうしても流れてしまう電流はシステムの信号配線を通過させないようにします。誘導雷の電流については信号線をノイズフィルタ用のトロイダルコアに通しても、信号線のグランドから信号線そのものに誘導を起こすだけなので被害をひどくするだけでしょう。

 対策装置(誘導雷防止器)を試作して100Vの低圧配電線に入れることにしました。通常の状態で誘導雷防止器からグランドへ漏れる電流が多すぎると漏電遮断機の感度が約30mAぐらいなので、感電の防止からもそれより十分小さい電流の洩れしか無いように作らなければなりません。
 そのために並列に使うコンデンサ容量の大きさには限界があります。ノイズフィルタには0.01μFぐらいが使われていて1mA以下の漏れ電流になるようにします。


 このような形で近所の直撃点から誘導されて拾い上げた電圧による誘導電流をシャックのアースに流すのがいいでしょう。L1はパルス電流を抑制し、Cはパルス電流を接地に流します。L2はCで抑制しきれなかった電圧を阻止します。L3は機器アースを接地に流れる雷撃誘導電流から切り離します。
 じつはたいていの場合もっと複雑で、以下のようになります。 L2は誘導電流をCにより接地に流すべきものがいくらか残り、機器の接地からアンテナ、タワーを介して流れていくのを防止します。LCはシステムの保安接地用でシャックのアースとタワーのアースの間に流れる誘導電流を阻止します。保安接地が必要なければ接続しない方がいいでしょう。
 高周波的にトランシーバなどを接地したければ、別途に運用周波数以上のHPFみたいなものを経由して接地するかカウンターポイズで仮想グランドを作るのがいいでしょう。保安接地を取るのはおすすめではなく、アンテナケーブルに同相トランスのバランを入れて機器の接地を回避した方がよいと思います。有線用のMODEMやLANで遠くに接続されている場合も、同じことがいえるでしょう。
 基本は信号線の接地線を経由して流れる電流を阻止することにあります。今までの常識と逆のことを書いているようですが、このアプローチは大規模なシステムを組むところでは常識になりつつあります。
 しかし、この常識も部品や製品レベルではまだ実現されていませんし、商品も存在していないので試作してみました。
 雷のエネルギーはPCなどで対象としている周波数領域に比べて一桁以上低いので、インダクタンスも同じく一桁以上大きくしてあります。電流容量もできれば10Aぐらい欲しく、捜したのですが特注以外ではTOKINの物しか手に入ら30mH、4Aのものにしました。同相巻きのチョークですから銅線の発熱で電流が制限されるので短時間なら10A以上を流せます。L3のチョークは同相巻きのコイルを直列になるように接続したので4倍の120mHになります。

 グラフAは実測の減衰特性、PCに使われるノイズフィルタはだいたいBのグラフになり200KHz以下の周波数帯域ではほとんどスルーになります。一けた以上低い周波数に設計してあります。
 このフィルタに誘導雷そのものを与えて測定はできないので(実は測定しようとしたら停電!)、数値計算でやってみました。 図12がモデルとした回路です。T型のフィルタそのままでバリスタなどが無い場合に2KVインパルスを与えてみると図10になります。
 立ち上がりの早いパルスは無くなりますがTフィルタの共振周波数で大きな振動が発生し出力には3KVぐらい出てしまいます。これでは何のことやら意味がない。


 そこでコンデンサの部分で200Vを越えないようにリミッタをかけると図14になります。振動は残りますがピークで450Vぐらいです、これぐらいならPCの電源部で何とか対処できるでしょう。信号グランドに流れる電流も0.2Aぐらいになります。リミッタには数A流れます。


 さらに大きな誘導を想定して20KVのパルスを与えると図15になります。出力に850Vぐらいが出ます。PCの電源部が耐えられるかどうかわかりませんがグランド電流は1A程度に押さえられます。数少ない実測データからの見積もりでは誘導雷の80%ぐらいに効果があると推定しています。残念ながら100%安全というわけにはいきません。


製作と部品

 コイル: 各種のコイルに0.1μFを並列につなぎ共振周期を測定してインダクタンスを測りました。

SWレギュレータの中にあった物は大きな物でも2mHぐらいしかありません。バーアンテナに巻いた物は気休めにもならないでしょう。インターフェア対策の同相トランスのレベルでは役に立たないと考えられます。
 別途オーディオ用で電源にいれるアイソレーション・トランスなるものが手元にあったので、それも測ってみましたが1mH程度しかありませんでした。
 最低でも30mH、本当は100mHぐらいを確保したいので通常のトロイダルコアのノイズ用トランスではインダクタンスが少なすぎます。
 各種メーカーにあたってみて、TOKINの(SC−04−200JV)が29mHで4Aの電流容量を持つので何とか使えるだろうと採用しました。3個で2Kでした。
 

コンデンサ

 これは250〜500V耐圧の物で0.2μFは内部に直列抵抗が入っているサージ対策用の物です。普通の0.2μFでもいいでしょう。 0.047μFは普通のセラミックコンデンサです。

リミッタ

 手に入った物は、AC100V用のバリスタです。あまり特性が良くないし破壊したときに短絡モードになるのでおすすめではありません。調べた限りではシリコンサージアブソーバと言う物で200V耐圧の物を使う方が性能的にも格段の良さがあります。(例:石塚電子のZ2180)
 これらの耐電流はコイルを経てから電圧制限するので、あまり大きな物である必要はありません。20Aもあればいいでしょう。

組み立て

 AC100Vを扱うので十分注意してください。入力と出力は反対向きに出します。この間に数千Vの電圧が瞬間的とは言え発生することをお忘れ無く。接地線は太い線で確実に接続してください。
 フィルタ接地端子と保安用の接地の間のコイルは同相コイルを直列になるように接続します。

使い方

 このフィルタはフィルタ接地端子を接地して使うことを前提とします。接地しなければ効果は非常に少なくなります。

フィルタ接地端子の接続場所

 実はこれが大問題なのです。できれば一点アース、ハムの場合にはタワーの根元が最適です。タワーが近くにない場合、2階屋ぐらいでしたら電線を引いてでも接地してください。私の家は屋根の上に足場材で組んだルーフタワーなので室内に露出しているH鋼にタップを切り接続しています。

 それが出来ない場合には、電子レンジなどに附属している50cmぐらいの接地棒でもかまいません。非常に低い周波数(1KHzから1MHz)なので10mほど引き回してもいいでしょう。
 ビルならば窓枠などですね。とにかく多重接地によるループを作らないように、すでに接地がある(ハムなど)場合にはその接地に近いところがいいでしょう。
 フィルタの役目は電流を流さない、電流をゼロには出来ないので信号線に流さずに始末する所にあります。フィルタ接地を基準点にして電圧を制限しようとします。

保安用グランド

 実は、この端子を使うのはおすすめできません。保安接地が必要な場合に使うだけです。ハムの場合にはアンテナを介してすでに接地されていることが多いので、多重接地を避ける意味で使わない方がいいでしょう。どうしても使う場合のために用意しています。この端子はAC100Vでは保安の役に立ちますが、高周波的には浮いています。

設置例

 無線機からTNC、RS232Cを介してPCに流れる電流を流さないようにするのが目的なので、アンテナの5DFBコネクタの外側にネジつけてPCまで直接分流させるようにしています。このバイパス線路は保安設置には接続していません。
 このようにすればアンテナからの電流のかなりの部分はPCまで直接流れ、途中で障害を起こしにくいと思います。

直撃雷の保安

正規の保安設備=避雷針は大掛かりになるので、最低限どれぐらいのものが必要なのでしょう。 直撃はごく短い時間に大電流が流れるので、その間の放熱は無く、すべてのエネルギーが導線を加熱するのに使われます。正確な計算ではありませんが直撃で電線が蒸発しない最低のアース線は直径2mm程度です。それ以下の太さだと確実に蒸発して無くなります。実際問題5DFB程度の外皮に直撃電流が流れると、外側導体はささくれだってしまいます。
 避雷針では主放電電流を安全に流すために素線が2mmぐらい、直径10〜15mm程度の鬼撚り線という専用の裸電線が使われます。電線の太さもありますが、保持が厄介で10KAもの電流でムチのように踊りますから専用の穴開き碍子を通して固定します。
 アルミのアンテナエレメントも熱か電磁誘導なのか理由は不明ですが1cmぐらいの太さの部分は曲がります。
 直撃雷に対しては火災保険をかけておくのが実際的でしょう。火事にならないようにするためには、2mm以上の電線を使った簡易接地でも無いよりましだと思います。

 雷が近寄ってくるとケーブル類に近づくことさえ危険なので、ケーブルを外すなどの対策はとっていません。雷撃は雷雲の最初と最後に多く、雷雲の周辺部で放電が多いと思えます。これは気象関係の本でも事実のようです。

ケーブルを外すタイミング(コラムが良い)

 多くの雷は3から5秒の間隔で落雷があります。一度放電すると雲の中の電荷移動に時間がかかるからなのです。ケーブルを外すときには落雷直後の3秒以内ぐらいに外せばOK。
 さらに、毎回の落雷は数km離れて落ちます。一度落ちると雲の中の電荷が集まってくるまで時間がかかるからです。近くに落ちたときの直後は安全です。
図15 ランダムウォークの落雷点と落雷間隔
 離れた落雷の5秒以後は危険なのでてケーブルにさわらない方がいいでしょう。


雷現象の測定

↑ 右上の説明にある「100kHz受信機」は間違い、オシロで直接観察する物です。1SS99は耐圧5Vのショットキーダイオードです。オシロで見たり写真を撮っているだけだと停電で観察できないので、カセットに録音しておいて後で観察しました。

↓ 100KHz電波を測定した写真です
 落雷現象に興味を持ち、周囲の先生方の所に押しかけて色々話しをしていたら興味が沸いてきて、TS430Vで151KHzの長波を聞いたりオシロで写真を撮ってみました。雷は2〜3kmの放電路を持つので低い周波数領域にほとんどのエネルギーを持っているからです。たしかに良く聞こえます。オシロで見ているとおもしろいものです。5km〜10kmぐらい離れた落雷の波形写真です。
 いずれも非常に受信感度を落とした状態で、20mのロングワイヤーです。

 遠くの雷ではなく、近所の雷を測定したいと思い、電灯線の中性線(接地線)と我が家のアースの間を見ていたら、またまた近所に落雷して停電してしまいました。5〜10km離れているときに20Vぐらいのパルスが出ています。これぐらいの距離になると大地抵抗による物ではなく電波による誘導と思います。
 しかし実験中、近所へ落雷があり、あっというまにダイオードが単なる抵抗に変身してしまいました。この時は漏電ブレーカが落ちてしまいました、製作したフィルタのおかげかTNCのMAX232Cだけが破損。オシロを眺めていた限りでは、非常に鋭敏なパルスが出ていておもしろかったのですが・・・
 近所への雷撃を観察するためには高耐圧のSWダイオードの方がいいようです。

 雷の研究はまだまだです。なにしろ自然現象、なかなか思い通りには落ちてくれません。測定の環境を整備し、簡単な装置で記録できるようにして多人数でやれば、おもしろいと思います。
 空電の研究から宇宙電波が見つかりました。さて雷様からは何が見つかるでしょう。非常に大エネルギーの現象なので予想もできません。予想できないからおもしろいのでしょうね。

落雷からの退避

一般的なこと

 金属物(ポールなど)を立ててそばにいるのは論外ですが、時計や指輪など金属物を外しても関係ありません。雷電流が金属に集中するので火傷の痕が残りますが、かえって体内を電流が通らないので死亡率が低いという説もあります。
 避雷針がそばにあっても野外ではまったく助けにはなりません、それどころか分岐放電を呼ぶので危険です。自動車はかなり安全ですが、窓アンテナに落雷して人的被害があった場合があるので車体に接地されていないアンテナは危険です。

森林や小屋

 木の下に立つと木への落雷の後、枝や幹から人間に分岐放電が起こりやすいので、木から離れること。小屋の中にいても玄関口や窓から外を見ていると体へ放電しやすい。木よりも人間の方が圧倒的に良導体だということを記憶しておくべきです。

岩石地帯、稜線

 最悪の場所で、人間が並んで歩いていると数珠つなぎに放電が起きます。岩の導電率が非常に低いので人間を飛び石として放電します。山岳での大量遭難はこのパターンが多く30人ぐらいが一挙に被害に遭うことがあります。
 くぼみを捜して分散するのがいいでしょう。被害に遭っても一人ですみます。金属ポールなどがあればポールと平行になっていれば火傷はしますが死亡率は低い可能性があります。

運用中

 とにかく、もたもたしないで無線機なんぞは放り出して逃げ出すのが最善です。命あってのものだね、くわばらくわばらと唱えて遁走あるのみです。

 少し中途半端な記事になってしまいましたが、現在進行形なので、こんな程度でお許しください。

謝辞:

電力中央研究所、狛江研究所の雷放電グループ横山さん。
前橋工科大学の宮崎先生には貴重なデータを提供していただき、お礼を申し上げます。

参考文献

TOKIN EMCラインフィルタ
電気学会技術報告522号 架空線における誘導雷現象
その他、地学、気象、ノイズ、電子回路の文献

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