GID-ADC2の設計にあたって (C) 数理設計研究所 2005/5/4 矢澤正人
1996年、初心者でも努力をすれば実用に使える、すこし難易度の高い汎用ADCモジュールとしてGID-ADCはりリースされました。
当初の配布目標だった100セットはあっという間に完売し、専用の端子台やデータロガーなどの仲間を増やしながら現在までに出荷数700セットを超えるロングセラーへと成長しました。
ロングセラーとなった要因は元来の基本設計の良さもありますが、突き詰めれば、ユーザ層の下限を努力をする入門者と割り切った点に辿り着くのではなないかと思います。
パソコン計測システムの構築には、計測対象の理解のほかにソフトとハード両方の技術が必要でなかなか壁の高いことです。
この壁にGID-ADCという程よい高さのハシゴを置いたことで、これを使えば自分にもパソコン計測ができるのではないかとユーザーの想像力を刺激し、知的興味と好奇心にうまい具合に火を着け、結果に結びついたのだと思います。
当初私たちがGID-ADCのユーザに要求した技術力は、パソコンプログラミング(主にC言語)の技術と、リード部品で構成された電子回路キットを組み立てる電子工作の技術でした。曰く、「Cならみんな判るよね、半田付けならできるよね。」
多くのユーザはすくなくともこのどちらかの技術を持っており、残りの一方の壁を超えるためにGID-ADCを選択することが多かったようです。
時代は進み、I/O空間を自由に操作できたDOSは消え、パワフルで複雑なWindowsが主流となりました。プログラミング言語の多様化・専門化が進み、C言語はパソコン計測を志す人の共通言語ではなくなりました。電子部品のチップ部品可が進ん、最新デバイスを使った電子回路製作は手元から遠ざかってしまいました。
実用的な技術を学ぶための学習用キットであったGID-ADCは、現代の壁を乗り越えるための道具としてすこし物足りないものになってきたように感じます。
壁の高さや形が変わったならば、はしごの高さや形も変えていくのが道理です。
現在と未来の壁を超えるための、あたらしいGID-ADCを作ろう!
あたらしいはしご=GID-ADC2は、どれくらいの高さや形のはしごにするべきなのでしょうか?
冒頭、ユーザ層の下限を努力をする入門者と割り切ったのがGID-ADC成功の秘訣であると書きました。
今日のパソコンとパソコン計測を取り巻く環境を眺めていると、入門者だからといって開発言語や半田付けに挑まなければいけないとは必ずしも言い切れなくなってきているようです。
GID-ADC開発の頃に比べて、ある現象をセンサで電圧に変換し、AD変換し、パソコンに変換結果を伝送し、最終的に画面に表示するなりディスクに保存するなりするまでの道のりは長くなったのではないかと感じることがあります。
実際、計測結果をインターネットで参照できるようにしたいことも多くなり、道のりはネットワークの向こう側まで延びています。
道のりが長いとなかなか向こう側まで辿り着くことができないので、行程を細かく区切ることになります。
個々の要素ごとの細分化を進めた結果、各要素単位では複雑で高度なことができるようになった反面、専門とする分野以外の世界が縁遠いものに見えてきます。
計測という行為はシステムの全体を見通すことができなければ成り立たないものですし、そもそも、ある仕事の端から端までを手中にする快感は他に変え難いものがあります。
さまざまな技術分野の、さまざまなレベルの知的興味を満足させるには、ひとつのはしごでは用が足りないようです。
実は、GID-ADC2の概ねのハードウェアスペックとデザインは既に決めつつあります。
ここで、多少無理があるのは承知の上で、GID-ADC2によるパソコン計測をおこなう為に必要な技術力を6つの技術要素と3つの難易度に分類してみました。
| 技術要素 | 難易度高 | 難易度中 | 難易度低 |
| センサ | オリジナルのセンサ アンプ回路を設計 |
市販のセンサを使用 | 動作を保証したセンサを使用 |
| AD変換と変換結果の送信 | マイコンプログラミング SPI、UART |
標準ファームウェア | 標準ファームウェア |
| パソコンで変換結果を受信 | PCプログラミング APIやマルチスレッド |
クラスライブラリやDLL等の 支援ライブラリ |
サンプルソフト |
| データの表示・保存・信号処理 | C++ グラフやオシロ、FFT 専用計測ソフトの開発 |
VBA、JAVA、Parlなど 数値表示 |
サンプルソフト |
| ネットワーク配信 | 計測サーバ構築 計測結果のメール配信 |
外部プログラムで実現 | 実装しない |
| 組立 | チップ部品のキット組立 | 完成品使用 | 完成品使用 |
すべての技術要素を難易度高で実現できる人は、GID-ADC2相当の装置を自ら設計し使いこなすことができるはずです。このひとたちはGID-ADC2を既知の道具として利用し、さらなる高みへ挑むための踏み台にすることができます。
インターネットに飽きたパソコン初心者がパソコン計測に興味を持った時、あるいは、パソコン計測をおこなうための道具としてパソコンに興味を持った人、計測データを得てからが課題であると位置づける人は、難易度低のところから壁に挑むことになります。
これらの中間の人、つまり、ネットワーク技術者だがハードはさっぱり判らない人、電子回路と通常のパソコン操作は得意だが両者を結びつける術を持っていない人、チップ部品の実装にトライしてみたいが適当なキットが無い人などなど。これらのひとは、それぞれの持つ技術力と知的興味の向くままに、どれでも好きな壁に挑むことができます。
GID-ADC2は形としてはハードウェア・モジュールですが、概念的にはいろいろな形や大きさのブロックのようなものです。旧GID-ADCよりも柔軟で、強力で、扱いやすいくも手強くもなるブロックです。
ユーザーは好みのブロックをどれでもいくつでも手に取って、これぞと思う壁の前に積み上げてよじ登ることができます。
願わくば、より多くの知的冒険者がより高い壁を上り詰め、そこからの眺めを存分に楽しむことを期待します。
初稿:2004/3/21