温湿度計


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tdksitu.pdf ←湿度センサーモジュールはTDKのCHS−UPS

 湿度とは空気の乾湿の度合いを表すもので,一般的に湿度と言えば相対湿度の事を指しますが,他にも相対湿度,絶対湿度,混合比,比湿,露点温度などが湿度に関係する指標になっており、用途や目的に応じて用いられています.

 相対湿度計は測定する場所の温度ぶおける飽和水蒸気圧を100とした時に気体中にある水蒸気圧を百分率で表したもので,単位は%が使われます.

 絶対湿度は1立法メートル(1m)の気体中に含まれている水蒸気の重量を表すものです.

 混合比は,湿った空気全体を水蒸気をまったく含んでいない乾燥空気と水蒸気の混合物であると考えた場合に,乾燥空気1kgあたりに含まれる水蒸気の重さをgであらわしたものです.

 湿度という一つのものを表すためにいくつもの表現方法が平行して使われている点から,温度や気圧に比べて湿度の取り扱い,制御がいかに難しいかを伺うことができます.

 湿度を気象要素の一つとして考えた場合,気温や気圧など他の気象要素の比べて一般的にそれほど高い精度を要求されないことと,低価格で扱いやすく,経時変化がすくない事から湿度の変化による毛髪やナイロンフィルム,薄く伸ばした金属板などの収縮を利用した機械式湿度計や,気温と湿球温度の差から湿度を求める通風乾湿計が多く使われてきました.

 しかし昭和30年後半以降,気象観測以外の分野での湿度観測の必要性が高まるにつれて,より正確で精度が良く,しかも再現性の良い湿度計を製品化しようと世界各国のメーカーが湿度センサーの開発に取り組むようになり,その結果近年ではユニット化された湿度センサーモジュールの性能の向上とコストダウンが急激に進んで一般的なセンサーモジュールのひとつとして使われるようになりました.

 湿度センサーの実現方法はいくつかの手法に分類されていて,古くから使われてきた機械式湿度計や通風乾湿計をアレンジしたもの,空気中を通過する赤外線やマイクロ波の減衰から湿度を求める電磁波式,電解質系,高分子系,金属・金属酸化物の抵抗値の変化から湿度を求める抵抗変化式,空気中の絶対湿度による熱電導率の違いから湿度を求める熱電動率変化型などがあります.

 今回の湿度計に使用する湿度センサーモジュールはTDKのCHS−UPSという製品です.

 この湿度センサーモジュールは,無調整で5〜95%RHの相対湿度を計測することのできる周辺回路一体型の小型モジュールで,5Vの電源を接続するだけでmV/%RHの電圧が出力されるものですが,入手できたデータシートには残念ながら内部構造に関するデータは一切ありませんでした.

 電子回路技術者にとって,必要とする性能を満足する部品についての正確な情報をいかに迅速に入手するかは非常に重要な問題なのですが,企業秘密に関わる部分はもちろん通常の使用にあたって必要と思われるデータや特性でさえ満足に入手できない事もあり,入手可能な場合でも入手までに非常に長い時間と手間がかかってしまう場合も少なくありません.

 外国の多くのメーカーや一部の国内メーカーではインターネット上での情報の公開を進めているのでこれも積極的に利用すべきですが,やはり常日頃からデータシートやカタログ等の入手を心がけ,いざ部品が必要になった時に慌てることの無いように常に複数の情報源を確保しておく事が大切です.

 参考文献1に今回使用するCHSシリーズについての解説が掲載されていたので,以下に引用します.

 ここで使用する湿度センサーは,TDKのCHSシリーズというセンサーです.湿度センサーの種類は,湿度の変化によってセンサーの抵抗値が変化する抵抗変化型で,その構造は基板となるアルミナ板の上に貴金属(金,銀,白金など)の電極を印刷し,その表面に電極を印刷し,その表面に感湿材料として高分子(有機質)を溶解した液体を塗布し,熱や重合によって,表面を堅牢にするとともに特性を安定にします.

 このセンサーは,高分子型と呼ばれています.

 CHSシリーズは,センサー駆動回路,リニアライズ回路,温度補償回路などがユニット化されており,電源としてDC5Vを加えると,湿度が100%のときに校正された1Vの出力が得られます.

 電極の材質が特定されていない点やCHS−UPSでは95%RHまでの測定しか補償されていないのに100%RHについての記述のある点が気になりますが,CHSシリーズ全体を対象とした解説なので仕方の無いところです.また,この文献にも内部回路についての詳細な解説は見当たりませんでした.

 既に入手済みのデータから製作にあたっての最低限の情報は確保できているのでこのセンサーユニットをブラックボックスとして扱ってしまっても問題は無いのですが,ケースの爪をはずすと簡単に内部を見る事ができる構造になっているので,中身がどうなっているのか眺めてみることにします.

 なお,こういった類いの分解行為をたいていのメーカーは歓迎しません.もし実際にセンサーの内部を見てみたい場合には,分解した時点でメーカーの補償する特性が得られなくなったり,最悪の場合センサーユニットそのものが破壊されてしまう場合もある事をよく覚えておいて下さい.

 写真1と2はセンサーの内部の拡大写真です.内部は大きく分けてセンサー部と基板部に別れています.

写真1 センサーの内部拡大写真おもて

写真2

センサーの内部拡大写真うら

 センサー部は実際に湿度を測定する場所で,直接触ってしまうと指紋や汚れが付着してセンサーの測定精度が落ちてしまう可能性があるので絶対に触らないようにします.もし汚れてしまった場合も,どうしようもない場合に限って柔らかい布でそっと拭く程度にします.どんな加工がされていてどんなそこで反応が起きるかがはっきり判らない以上化学薬品の類いは絶対に使うべきではありませんし,データシートの絶対定格の欄で環境条件として保存時も結露してはいけないと定められている事から,水分も厳禁です.

 基板部はガラスエポキシ製のスルーホール両面基盤で,実装されている部品はすべてチップ部品です.

 チップ部品はサイズが非常に小さいため,定格や型番などのデータが部品に書かれていない場合が多く,スルーホールの両面基板であることもあって一見したぐらいではどのような回路なのかよくわかりません.

 チップ部品のサイズや形状から推測した部品構成は抵抗16個,コンデンサ1個,トランジスタ1個,シングルオペアンプ3個,半固定抵抗1個のようです.センサー駆動回路,リニアライズ回路,温度補償回路がサイズの基板上に実装されています.

 通常の大きさの個別部品を使って同じような性能の回路を設計することは十分可能な筈ですが,無理に一から設計しようとしていたずらに工数を増やしてしまうよりも,部品として用意されている製品があるのならば素直に使ってしまおうという考え方が現在の回路設計の主流になっています.

 自己啓発や技術向上を目的とした場合には,逆に積極的に動作原理を追求して一から設計できるだけの技術力を養う必要がある場合もあります.

 回路図も使われている部品の規格も不明なので,センサーユニット内部は眺めるだけにして元のケースに戻します.

 センサーユニットには3本のピンが出ていますが,これには極性があるので実際のピンとケースのラベルが一致するようにケースをはめ込みます.ピンとセンサーユニット外周部分の間隔が狭い方がラベル面になっています.

 湿度の測定では,特殊な場合を除いて5%程度の測定誤差はまったく問題にされません.公称精度3%という数字はなかなか高性能なものだと言えます.

 また,一般家庭用のエアコンなどに公称精度3%の湿度センサーユニットを内蔵する理由は考えにくく,より精度を要求される産業機器,計測機器向けに開発された製品であることはデータシートにも明記されています.

 データシートの絶対定格の欄には,動作時の環境条件として使用温度0〜50℃で結露しないことと明記されています.これはつまり,冬期の最低気温が氷点下になる地域での屋外での使用をメーカー側は保証していない事になります.

 データシートの温度特性(温度依存特性)のグラフを見ると,相対湿度10%RHの時に最も温度変動による影響を受けにくいように設計されているように見えますが,一年のうちで一番空気が乾燥する真冬の関東地方でも最低湿度が20%RHをやっと下回る程度なので,意図的に10%RHを中心に特性を決定したとは考えられません.

 次に温度変動の影響を受けにくそうなのが40%RHですが,50%RHと30%RHの温度特性が40%RHの特性を中心に対称の形になっているように見えることから,40%RHのレンジを中心として温度補償回路が設計されているのではないかと想像できます.

 また,5%RHや90%RHの時,温度が高くなるに連れて温度特性が悪くなっていますが,通常の環境の湿度を測定する場合にはこのレンジを測定する必要性はほとんど無いで実用上はさしつかえないのではないかと思われます.

 低湿度の時に2.5mV以下のリップルが発生することが特徴の欄に明記されているのですが,データシートからはどんな理由でどんな形のリップルが発生するのかについて触れられていません.この点に付いては後ほど実際に観察してみることにします.

 周辺回路不用がこのセンサーユニットの特徴の一つで,基本的にセンサーユニット以外の外部回路を接続する理由は見当たりません.回路全体は非常にシンプルなものになりますが,湿度と温度が同時計測できるようにCMOS温度センサーも内蔵することにします.

 湿度センサーユニットは+5V,GNDをそれぞれGUPPY−ADCの端子と接続し,Voutを任意のアナログ入力端子に接続します.ここではCh0に接続することにします.

 CMOS温度センサーはセイコーのS8100Bという製品で,こちらもVdd,Vssをそれぞれ+5V,GNDに接続しVoutをGUPPY−ADCのアナログ入力端子に接続します.こちらはCh1に接続します.

 この他に,GUPPY−ADCのマニュアルで推奨している電源端子の電圧保持用のコンデンサを追加します.+5VとGNDの間に4.7uF,+8VとGNDの間に33uFの電解コンデンサを接続します.

 温湿度計、全体回路図

写真3 湿度計製作例

 GUPPY−ADCと湿度センサーユニットをパソコンに接続しRSTEST.EXEを実行すると,Ch0に湿度センサーの出力,Ch1にCMOS温度センサーの出力が表示されます.Ch0に1V以下,Ch1にだいたい1.4〜1.7V程度の電圧が表示されていれば問題ありません.

 次に,温度や湿度に対して各センサーが動作するかどうかを確認してみます.GUPPYTEST.EXEを動作させたままセンサーにそっと息を吹きかけてみると,湿度と温度が上昇してCh0は上昇し,Ch1は逆に下降します.

 何回か繰り返しても思うように電圧が変動しない場合は,パソコンのハード,OSの設定,GUPPY−ADCとすべての配線を一つづつ確認し,確実に動作している部分をリストアップしながら原因を特定していきます.

 Ch1の温度は安定に測定できているように見えますが,Ch0の湿度は数mVの範囲で常に変動を続けています.原因はデータシートに書かれている低湿度時のリップルによるものであると推測できます.

 早速,オシロスコープやDSCOPE.EXEなどのGUPPY−ADC用波形観測ソフトなどで湿度センサーの出力波形を観察してみます.

DSCOPEでの観測例。周期的なノイズか見える。

 湿度センサーの出力が約13%RHの時,P−Pで11mV,約40Hzのノイズが観測されました.

 電源ラインやCMOS温度センサーの周辺には類似のリップルが認められないので,このリップルは湿度センサーユニットの内部で発生していると思われます.

 内部回路が不明なので確かな事は言えませんが,センサー内部に組み込まれている何らかの発振回路が原因ではないかと思われます.

 原因が良く判らなくても,対策は立てなければなりません.

 GUPPY−ADCと湿度センサーユニットの間にローパスフィルターなどを付加してしまう方法もありますが,ここではよりシンプルに湿度センサーの出力をそのままパソコンでサンプリングしてしまい,測定値を複数回サンプリングして単純平均を取って湿度を求めることにします.

 測定値のサンプリング回数はパソコンの演算処理速度によって左右されます。

 今回は単純平均による手法を採用しましたが、デジタル信号処理によるノイズの除去や測定性どの向上を計れる可能性は多分にあります。

 実際の測定にはHYGRO.EXE、校正にはRSTEST.EXEを使用します。ソフトウェアの使い方、構造などについてはそれぞれのソフトウェアに付属のドキュメント、マニュアル等を参照してください。

 これらのソフトウェアはGUPPY-ADCと温湿度計の動作原理、利用方法の実験、研究を目的として作られたサンプルプログラムです。

 GUPPY−ADCと温湿度計をパソコンに接続詞HYGRO.EXEを起動して実行すると相対湿度と温度が表示されます。

 湿度の校正を行うためには、校正の基準となる湿度計が必要となります。しかし一般に市販されている、ナイロンフィルムや薄く伸ばした金属板などの収縮を利用した機械式湿度計の中には、測定精度が非常に悪かったり、極端なヒステリシス特性を持っているものや、応答速度が実用にならないほど遅いものなど、とても湿度計とは呼べないようなものが少なくありません。

 気温と湿球温度の差から湿度を求める通風乾湿計を基準湿度計として使用して校正する方法がもっとも一般的であると言えますが、簡易的な実験においての再現性の問題から今回製作した湿度計よりも正確に湿度を測定できる保証がどこにもありません。

 24時間連続で測定を行って最低湿度と最高湿度を取り出し、翌日以降に最寄りの気象台に測定した日の最低湿度と最高湿度を問い合わせて、誤差が5%以内であれば通常の使用においては校正は不要だと思われます。

 CMOS温度センサーはデータシートによると次の式から温度を求める事ができるはずなのですが,実際の温度とCMOS温度計による測定結果が若干ずれてしまうことがあるので、正確な温度の測定を行いたい場合には校正の必要があります.

式1 S−8100Bの温度(T)-出力電圧(Vout)

 できるだけ正確な測定のできる温度計を用意して,CMOS温度計で測定された温度との差を求めたものが

CMOS

温度計出力(mV)

式1により求めた温度

実測温度(℃)

1,924

-19.4

-18.5

1,743

3.23

5

1,708

7.6

10

1,666

12.85

15

1,626

17.85

20

1,589

22.48

25

1,541

28.48

30

1,507

32.73

35

1,470

37.35

40

1,430

42.35

45

1,383

48.23

50

1,349

52.48

55

1,308

57.6

60

1,262

63.35

65

1,228

67.6

70

1,185

72.97

75

1,142

78.35

80

1,104

83.1

85

1,062

88.35

90

1,018

93.85

95

980

98.6

100

表1 式1による温度と水銀温度計による実測温度

図1 CMOS温度計による測定温度と実測温度の偏差

 以上で湿度計ユニットの回路部分は完成ですが,実際に使用する場合はケースに収める必要があります.

 湿度センサーを直接風が当たる場所に設置すると正確な湿度が測れませんし,かといってケース自体の気密性を高めてしまうとやはり正確な湿度が測れません.屋外で使用する場合にはそれなりの防水対策や防塵対策も必要になります.

 長期間の測定を行う場合はケースや基板に穴を開けたり,薄いガーゼで包むなど使用環境に合わせて対策を講じた上で使用して下さい.

 今回使用した湿度センサーについて、内部構造がまだ明らかにされていません。メーカー発行の技術資料が入手できていない現状では一般論のみを前提とした理解までしか至れなかった点が残念です。

 また、測定対象が湿度という一般的に扱いにくいものである点を考慮したとしても、校正や測定の手法そのものについて再考が必要です。

 市販のセンサーユニットを使用せずに個別半導体を使用した湿度計の設計、製作、実験を行い技術力の向上を計ることを含めて今後の課題としたいと思います。