そびえるアンテナにあこがれてハムになりました.無線で通信する相手は誰なのか?,不思議な感じをもったものです.さまざまな通信手段を選べる時代になっても,始めから相手を特定しない通信を前提とするハムのおもしろさは他に代え難いものがあります.
本来のハムはこういうものだなどと時折り話しがでます.電池や真空管を自作する時代から(今ではCPUを自作することだってできます),それらを組み合わせて送受信機を作る世代(私の世代)へ移り,今では出来合いのトランシーバを買ってくることが普通になっています.これも時代の流れでしょう.自作がおもしろいとは言え,メーカー製のコストや性能と比較して,とってもかなわないのでは自作する気すら起きません.
ほとんど市販品でまかなう今,アンテナだけは初心者からプロ級の方までアマチュアに手の届き,創造のよろこびを与えてくれるものです.
いくつかの理由があります.市販品は多くのユーザーに売らなければなりません,性能と値段のバランスも最大公約数的に決められてしまいます.トランシーバなどは大量に売れるので非常に安く買えるのは嬉しいことです.しかしアンテナは未知の部分が多く,用途も多様で,これひとつでOKと言えるものにならないからでしょう. ハムが自作するものの上位にアンテナがあるでしょう.電子回路と違って簡単に製作できる半面,評価が難しいものです.私のはこういうデザイン,俺のはこうだと談義が尽きません.実際のところどうなんだと言いたくなることもあります.
雑誌やハンドブックをあさり,先人が手がけたデザインをコピーすることしかできないと思われるかもしれません.いえ,そんなことはありません.科学技術はこれで極まってしまったと思うこともあるでしょう.しかし,ちょっと待ってください.それほど自然世界は底が浅いものではないのです.汲めども尽きない興味と深さ,深淵を見せてくれるものです.
今の技術は百年前の魔法,百年後の技術は今の私たちには魔法に見えるでしょう(A・C・クラーク) 私たちは身の回りにあるいくつかの現象を解明したかもしれません.
未知の世界は広く,影すら見せていないことが数多くあります.解明どころではありません.現代の科学技術は,まるで原始の人々が火を手にして狂喜しているようなものでしょう.
ハムにとってアンテナは単なる電波の出入口ではありません.世界と私たちをつないでくれる窓であることはもちろん,我々をこの未知の世界に導いてくれる足掛かりなのです.今から100年程前,電波を人工的に作り通信を始めた時代から,未来に渡って研究されていくでしょう.
アンテナ自作の本は,基礎的なことを順序よく配置するのが普通です.しかし良く考えてみると,基礎的と言われていることが本当に基礎なのではなく,もっと前の発想を抜きにしては意味がないのではないかと思います.そこで本書ではベースになる私的な経験から始めます.
本稿は理論や実験経過の紹介ではなく,特に八木アンテナを主題にして,アンテナ設計の発想をベースにして,基礎から設計までを読者の必要とレベルに応じて役立つように整理して書いたつもりです.コンピュータや電子回路の設計製作は科学技術の成果を使うだけだと思われる方も多いと思いますが,設計の基本はイメージなのです(もっともイメージには幻想という意味もあります!).
難解な数式が先に立つのではなく,イメージを持ち,それをひねくり回して設計に至ります.どんな製作でも実はそこがいちばんおもしろいところなのです.デジタル回路なら入力から出力に至るまで,いくつかのブロックを想定し,インターフェースを決めて間をつなぐように信号を変換していきます.これがLSIや回路を実現する手順です.
アンテナも全体を漠然とひとつとして見ていては理解が困難です.電波が空間に出ていくまでのプロセスをイメージしながら,あれやこれやのイメージをふくらませて実物まで仕上げていく,これがもっともおもしろいのではないでしょうか.
とかく画一的な教育などと言われます.他人事のように題目を唱えている私達も,ある事実の説明はひとつだけだと決めつけている傾向があります.
あることを説明するのに,事実はひとつだからひとつの説明で間に合うと考えるならば,説明したことにはなりません.非科学的であると言うのは,ひとつの説明で満足することだと言ってもいいぐらいです(R・P・ファインマン)
人間の頭脳は事実を人間の言葉で理解し,表現します.事実そのものではない言葉で表現するからこそ,時間や距離を越えて知識が伝わるのです.事実そのものを提示しないで,ある種の記号として伝え蓄える能力が人間の知能の本質でしょう.
言語は,言語そのものによって意味を伝えるのではなく,読み取った人の経験や想像に乗った形で意味を再構成します.
同じイメージ,同じ解釈では神ならぬ人の世界は貧相になります.少しでも,他人とは違った解釈や誤解を持っていただければうれしいのです.誤解でさえ意味があり,有用なのです.
人と同じなんて,ちっとも良いことではないのです.意見を問われて,”あの人と同じ”なんて答えるようでは生きている意味がない.
地球を小さく見積もって大航海に出発したコロンブス.大西洋海底ケーブルを燃やしてしまった科学者.光は粒子だとしたニュートン.神はサイコロを振らないと言ったアインシュタイン.
いや,そんなに有名でなくとも,たわごとを吐くアマチュアでいいじゃないかと思うのです.・・そういうわけで,八木アンテナの動作や製作方法について感覚的なイメージを前面に置いて,今までとは違った考え方を述べるように努力してみます.
私はEMEアンテナの性能のすばらしさに興味を持ち,ダイポールの実験から始めました.数値計算でパソコン上での実験をしたり,測定設備の製作など3年ほどかかった経験を元にしています.仕事と趣味の境目がはっきりしない場面もあったので,本書の実験には仕事として行ったものも含まれています.
最近ハムの質が落ちたなどと言われます.老人がいつも若者を揶揄する類のものでしょう.アマチュア魂はいつの世も変わりはないと信じています.
QSOの時,”(メーカー名)の18素子の八木です”と紹介するのではなく,”私のアンテナはこんな発想で作ったオリジナルデザインです”,の声を聞けるよう念願して本書の幕をあけましょう.
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