群馬大学の明治期教科書コレクションの概要

群馬大学附属図書館本館は、およそ3000冊ほどの明治期の出版された書物を所蔵している。それらの多くは「教科書」であり、群馬大学のいつくある前身校の内の2つである群馬県師範学校、群馬県女子師範学校から継承したものが、大半を占めています。珍しいところでは、群馬県師範学校のさらに前身校である熊谷県暢発学校が所蔵していた教科書も含まれています(熊谷県暢発学校の頃の蔵書:『究理図解』と"Natural Philosophy"、群馬大学図書館報『LINE』 No.287 2002年12月、3-5頁 参照)。

本コレクションの特色は、当時の図書館が蔵書のために直接購入した教科書だけではなく、当時の学校で生徒が実際に使用した使用済み和装本の明治期教科書を600冊以上近くを含んでいることです。これらの使用済み教科書は、我々の研究により、群馬県女子師範学校郷土研究室が女子師範学校の生徒を指導して、親族・縁者から収集したことが分かっています。(群馬大学附属図書館書庫と特殊資料室に保管されている群馬懸女子師範学校郷土研究室蒐集本の背景、群馬大学図書館報『LINE』 No.287 2002年12月、6-12頁、 群馬大学附属図書館所蔵理系明治期教科書和装本の考察 その由来と目録、『埼玉医科大学医学基礎部門紀要』第10号(2004年)、1-16頁 参照)。

明治初期から中期にかけては、尋常・高等小学校においては、国定教科書は存在せずに、検定済み(明治初期はまだ教科書検定制度はない)教科書から各府県が独自の判断で指定する形となっていました。そのため群馬県女子師範学校郷土研究室が収集した使用済みの教科書を調べることで、当時、群馬県においてどの様な教育が展開されていたかを知る手がかりを得ることが出来ます。(例:群馬大学所蔵明治期教科書の調査について―物理関係書を中心に―、日本科学史学会 第49回年会、研究発表講演要旨集 p.25、金沢大学角間キャンパス、5月(2002)、群馬県における明治中期の「科学」・「理科」教育の実態と群馬県師範学校、『科学史研究』第43巻(No.230)(2004年)、74-82頁 を参照)

これらの教科書コレクションを整理・分析するようになった経緯は、以下のような偶然からです。

 
研究の発端

編集後記:『大学の物理教育』2001-2(2001)pp.71-72. より

(前半、省略)
 
先日、群馬大学の滝沢先生の案内で、同大学付属図書館の田辺文庫(田辺元の寄贈図書)を訪ねた。哲学、思想、宗教などの書籍に混じって貴重な物理学書も見出した。田辺先生の造詣の深さを知らされた。その近くにスピノザ文庫があり、さらに壁側の本棚に群馬県師範学校時代の夥しい数の和綴冊子が積み重ねられていた。その中に『小學物理書』上、中、下を見出し、手にとって驚いた。明治16年5月(1883年)刊行とある。内容は、力学、熱学、波動、電磁気学で、蓄電器による火花放電が図付きで解説されていた(目次裏写真参照)*。志賀泰山訳纂とあった。おそらく内容は当時の「最先端」になろうと滝沢先生と語り合った。
 
和冊子を借り出し、当時の物理学用語の訳出と今の用語の対比研究などについて、群大の物理学教室(工学基礎第二)の方々と議論をした。因みに、慣性は、「惰性或いは習慣性」とあった。
 
その後、明治期最初の理科相当教科は「物理」と「博物」であり、この冊子はその教科書の一つで、内容は Introductory Physics であること、また明治16年頃から物理学術用語の整理が山川健次郎などの物理学者により始められ、明治21年に「物理学術訳語対訳字書」が刊行されたこと、などがわかった。そして、志賀泰山はこの物理学訳語会のメンバーであった。さらにメンバーの中に後藤牧太という人物がいて、この人の教え子たちが群馬県師範学校教諭になっていることもわかった。

とにかく、明治初期の自然科学教育においては、物理学がかなり重要視されていて、その導入が積極的に行われていた状況を、この書物の出版が有力に物語っているような気がした。
 
『小學物理書』の写真を掲載するに際して、ご協力いただいた群馬大学図書館、物理学教室の方々に、この場を借りて篤く御礼を申し上げます。  

 (赤羽 明)

注* このホームページのトップに掲載している写真を参照

2003年1月31日 (社)日本物理学会 より 転載許諾受理


このサイトの運営に関して

群馬大学附属図書館本館に大量の明治期教科書が保管されていることを知ったのは、平成13年初夏のことであった。我々は図書館の協力を得て、それらの図書の整理・調査の作業を行ってきた。現在、作業途中ではあるが、一部成果をホームページに紹介することになった。やがては図書館のサーバーシステムが全ての影像を保持し、電子図書館として整備されるに違いない。しかし現状は図書館として大量のメモリーをサポートするには至っていないということであり、我々は図書館の了解のもとに、我々グループのサーバーで、取り込んだ影像を公開するものである(こちらのページ)。我々のサーバーはメンバーの一人(玉置)が関係している企業、数理設計研究所:Mathematical Assist Design Laboratory ( madlabo)が、メセナとして外部研究者に無償提供しているサイトを利用している。

メンバー

所澤 潤 群馬大学 教育学部 附属学校教育臨床総合センター
赤羽 明 埼玉医科大学医学部 物理学教室
高橋 浩 群馬大学大学院工学研究科 応用化学・生物化学専攻(荒牧)
玉置 豊美 群馬大学非常勤講師・(株)数理設計研究所(核物性室)
森下 貴司 神奈川県立神奈川工業高校
滝沢 俊治 群馬大学・名誉教授