ひとつ前へ  叶迫攝ン計研究所Topへ   記述責任者名倉 裕

表題 松木川支流、大ナギ沢の地形の形状測定
1.大ナギ沢ダム堆積土砂表面形状の測定
   
対象地 栃木県上都賀郡足尾町松木川支流大ナギ沢
大ナギ沢ダム
処理日付 2001/07/21
実施 2001年7月10日 処理担当 名倉 裕
測定 数理設計研究所 名倉 裕、藤永 清和、玉置 晴朗 レポート 名倉 裕

 栃木県上都賀郡足尾町松木川支流大ナギ沢。
 これは、渡良瀬川の源流部にあるこの沢の、形状を測定しようという試みの記録です。

 広大で、急峻なために崩壊が多く、樹木の気配が比較的少ない松木川本流両岸も含めて、7月ともなると数メートルから10余mの木々が緑の葉を繁らせていて、河原は草地となっている部分も多くあります。冬、草は枯れて木々の葉は落ちて、土砂の崩落面ばかりが目立つ景色とは大いに異なります。

 レーザスキャナによる形状測定には冬が良く、木々の緑や河床を覆う草は、地形形状の測定には無用なばかりでなく、データ処理の手間を増すばかりです。しかし多くの夏の山に見られるような雑木の密集や下草の盛り上がりはここのは無く、植生の密度は他の地域の山野に比べると薄いのです。
 そのためにレーザスキャナは容易に地表を捕らえる事ができて、写真で紹介するような植生は、容易に地表と判別して地形の形状を露わにできます。

 この一連の測定をこの時期に企画したのは、ここに新たな砂防堤が建設されるためです。今、新砂防堤が建設される前の大ナギ沢の地形の形状データを得れば、後日、砂防堤によるその変容を知ることができると考えて、そのための基礎データを収集することにしました。

 ここでは、大ナギ沢ダムの土砂堆積地の形状測定についてレポートします。

大ナギ沢ダムの土砂堆積地
左上に見えるのは、松木川本流

● 大ナギ沢ダム
 大ナギ沢が松木川に合流する地点のすぐ近くにあるこの砂防堤は、幅60余m、高さ10余mほどの大きさで、その上流には60mほどにわたって堆積する土砂をせき止めています。堆積する土砂は砂防堤の中央からあふれるばかりで、上流の堆積地の上端との標高差は10mほどです。

 堆積地上は溝が刻まれた水路の凹部と、礫が堆積した凸部が交互にあって、左岸の堤体に近いあたりでは径1m近い岩が密集しています。
 ところどころに樹木が群生していて、部分的に線の高い草があります。

 新たに建設が予定されている砂防堤は、この100mほど上流です。

● 測定機器
 レーザスキャナには大別して回転ミラー型と経緯台型との2種があります。それぞれ特長があって、回転ミラー型は短時間に大量のデータを得られ、200mから300m程度の範囲まで有効です。
 経緯台型は測定速度は遅いのですが精度が高く、約2kmの距離までを測定できます。
 ここでは距離が短いために回転ミラー型の精度で充分であり、短時間で多くのデータを得る事に重点をおいて、回転ミラー型を使うことにしました。
 距離精度は±2.5cm、最大40mの距離と考えて、角度精度は±10cmを期待できるよう測定条件を設定しました。
 他に制御用のパソコン、バッテリー等を用意しました。

 大ナギ沢ダム 堤体部

Riegl LMS-Z210
回転ミラー型レーザスキャナ

● 測定
 測定は2001年7月10日に実施しました。
 測定作業   2名
 危険監視作業 1名
 計      3名

 測定は右岸、左岸の上部から行う案と、堆積地内で行う2案がありましたが、右岸に適当な、平坦な測定地点が得られない事と、危険地帯ではあるが好天に恵まれたこともあって、堆積地に入っての測定としました。
 堆積地上には5mを超える樹木が繁茂し、更に1mを超える多くの石がある事から1〜2ヶ所からの測定では陰になる部分が多く、陰を無くすために5ヶ所の測定地点を設定しました。
 1点あたり、移動、設置、測定合わせて20分。
 データ合成のための基準点として、地域内に多くの反射板を設置。
 これらの計画、準備作業のための時間は1時間としました。

 午前11時開始
 調査 1時間
 昼食 1時間
 測定 20分×8(1ヶ所だけ2度測定)
 午後4時終了
 以上の時間計画として、ほぼ予定通り完了しました。

 更に、上流河川部分の新砂防堤の建設予定地付近について、2ヶ所の測定を行いました。
 この上流河川部分の測定結果については、別稿で紹介します。

樹木と大石の間の測定

上流砂防堤予定地域の測定

● 取得データ
 形状を表すデータは測定地点1ヶ所あたり約100万点、合計約800万点でした。測定の実時間は1ヶ所あたり2〜5分です。
 測定地点に近い部分は非常に密度の高いデータが得られ、遠くなれば密度が小さくなるので、データ点数はそのまま詳細度を表しませんが、目安にはなります。同じ地点を重複して測定したものもあれば、1つの大石を裏表から測定したデータもあります。

 レーザスキャナで得られるデータは密度が高いので、熟練による補間を行う必要がありません。
 ここでの測定ではほとんどの部分で、10〜20cm以下の間隔で地形の座標データが得られました。
 変化し続ける地形の形状を知るためには、充分以上の精度でしょう。

測定したデータ点 平面図 上が堤体
標高によって着色して表現した図

堆積地部 0.5m等高線図





 5m毎 流れ方向断面図


 10m毎 堤体と平行な方向断面図


堤体上空から上流部を見下ろす鳥瞰図




参考図

等高線図 1m
等高線図 0.2m
縦断図
横断図
鳥瞰図
網状鳥瞰図
詳細地図
写真
周辺1/25000地図

 参考データ例 
● データ処理 整理、合成
 エラーデータの除去:Z210レーザスキャナは、わずかな率ながらエラーデータを生じます。これは10mのものが10.5mになるというような僅かなブレではなく、例えば5mになるよいうような大きなブレであることは分かっているので、これを自動的に削除しました。

 樹木の除去:樹木のデータをおおまかに取り除きます。
 90%程度は自動的に処理できます。
 どうしても自動的に除けないものは、合成の後でソフトウェアの支援による手作業で除きます。

 メッシュ化:こうしてエラーと樹木を除いたデータはメッシュ化し、データサイズを1/4程度にして短時間で扱えるものとします。4cmメッシュのため、必要な細部を損うことはありません。

 合成:5ヶ所からのデータを合成する(1つの座標系に合わせる)ための、基準となる参照点を抽出します。
 参照点は、地域内各所に設置した反射板の座標データで、各測定点から4〜8点のデータを得られました。
 これらのデータから、ほとんど誤差のない合成ができました。

 全データを合成して1つの座標系に表した後、堆積地内の樹木データをほぼ完全に取り除きました。
● データ処理 等高線図
 4センチメートルでメッシュ化したデータは、全部で100万点ほどのデータ数となって、処理には多くの時間がかかります。
 ここでは時間の節約のために、最終的に必要な細やかさを損なわない程度にメッシュを大きくしてデータを減らし、処理を行いました。
 測定だけでなく処理においても、時間と詳細さがトレードとなります。
 ここでは0.2m0.5mの等高線図を作成しました。

 データを減量したとはいえ密度は充分に高いので、大きな補間をすることなくリアルな等高線が得られます。
 後日の測定で僅かな変化を得ようとする場合には、データをあまり減らさないで差分を計算して、変化量の分布を算出、図化します。
 ここでのデータ点数は、4cmメッシュなら約100万点、50cmメッシュなら26000点ほどになります。
● データ処理 縦断面図
 ここでは堤体と直角の方向、川の流れに平行な縦断面図と、堤体に平行な縦断面図を作成しました。
 流れに平行なものは、中央部から5mおきに作成した例を示します。(
 堤体に平行のものは、10mおきで1つの図に表しました。
 断面図は任意の方向に、任意の間隔で作成できます。
 ユーザーが自ら所有するソフトウェアで作成するためには、形状データ全体を各種のデータ形式で提供します。
 点データやTINデータでも可能です。
 例:データ数26000点程で、エクセルやAutoCADでも扱いやすくしました。
 50cmメッシュのCSV形式データ
 50cmメッシュのDXF型CADデータ
 
● データ処理 サーフェース図
 点データ群をTIN形式に変換して、その表面を図化したものです。
 これは画面上で回転させたり、光の照射方向を変えることができて、凹凸が明確に現れたり、地形の全貌が分かりやすくなります。
 全体の形状の把握が容易になるので、地形形状の何等かの値を定量化する目的のものではありませんが、これを必要とする観察者によっては、有用な情報を多く得ることができます。 
● 処理日程
 以上のデータ処理、データの整理、図化のために約4日かかりました。
 こうした狭い窪地での、回転ミラー型での測定の経験が少なく、参照点の扱い方にいくらか工夫が必要で、それに時間を要した事が1つ。
 図化するに際して、どのような形式が適当かとの検討に時間を費やしたことが1つ。
 以上の2つの要因があって、4日かかりました。

 参照点の扱いについては、更に自動化できる要素が見つかったために改良を進めて、半分程度の時間で可能になるでしょう。
 図化については、どのような形式が良いかというユーザーの要求がはっきりしていれば、半分の時間で可能と思われます。
 したがって今後の処理は、2人日程度の手間があれば完了できるでしょう。
● 処理を終えて
・測定データ
 沢筋という、比較的狭い地形の多い中では、今回の堆積地は測定には恵まれた地形でした。開けていて見とおしが悪くありません。樹木も多すぎて困る、というほどではありませんでしたし、なにより好天が続いていて、土砂崩れの危険地帯にもかかわらず、安全性を確保しながら順調に作業を進める事ができました。
 おかげで合成誤差は最小に収まり、良好なデータを得られました。

・測定作業
 新しい砂防堤の予定地は測定できましたが、更に上流の、砂防堤に溜まる土砂で埋もれてしまう地域の測定はできませんでした。
 現地で堆積地を重点とする余裕のあるプログラムに変更したためでした。
 近い将来、この部分は測定する予定です。

・処理結果
 形状データから作成したサーフェース図、等高線図、断面図から、地形形状の細部までを良く取得できている事を確認できました。
 出力書式としては、他に色々な方法がありそうですし、ユーザーにデータを提供する形式もSIMAをはじめとして色々ありそうで、早々に対応可能にしようと予定しています。

 座標変換
 ここまで例としてあげた図の座標系は、この測定独自のものです。
 上流砂防堤工事のために測量が行われ、多くの既知点が存在します。今回の測定でも、既測量点のいくつかを測定してあるため、後日このデータ座標系を測量座標系に変換する予定です。
 変換作業は、公共座標系の座標値と今回の測定値を入力するだけで、容易に完了します。
● 将来に向けて
・今回取得したデータ、そして間もなく取得する予定の上流部のデータによって、新しい砂防堤にどのように土砂が堆積していって、下流の砂防堤にどんな影響を与えるかを追跡する事ができます。

・大ナギ沢ダムに堆積する土砂の量は、大ナギ沢ダムの堤体の下部を測定したデータの形状から、土砂が堆積する前の河床を推定して、堆積量全体を推定できると考えられます。

・大ナギ沢の、今回の測定地域よりも少し上流側で従来続けてきた、崩壊斜面の形状データと合わせて、斜面から崩れて落ちる量と、河床に堆積する土砂量の収支を計算できる可能性があります。

 以上。